夢の訪れ ページ1
スメールは大人になると夢を見なくなる。
だが草神が救出され、スメールの民は夢を返された。
その事に喜ぶ者、楽しむ者、様々な反応を示したが、
一方で夢の訪れを憎んだ男が一人いた。
おもむろに上げられた瞼から覗く紅の瞳は、朝日を受けても朧気な様子だ。
気だるい体を起こし、頭を抱える。
男の脳内は夢の内容に支配されているようだ。
「……今日は刺殺か」
ため息と共に小さく零れた言葉が、空気を濁した。
自身の手を見つめ、苦しみに耐えるように顔を顰めて拳を握りしめた。
「夢だ。夢なんだ……」
言い聞かせるようにそう呟き、やがてベッドから降りる。
軽く身支度を済ませ、部屋を出た。
いつも通りの日々が始まる。
ルームメイトと喧嘩をするのも、依頼主の無茶な要望を笑顔で捌いていくのも、
顔見知りと軽い挨拶を交わすのも、いたって普通の日常だ。
だが夜になれば、寝る時間になれば、男は緊張する。
ベッドの縁に腰掛け、手を組みながらゆっくりと深呼吸を繰り返し、決心をする。
布団に身を包み、瞼を下ろす。
明日に備えて眠る行為に怯えるのは、スメールの中で彼だけだろう。
男にとって、夢を見ることは義務だ。
いや、義務というよりも、呼吸と同じだ。
強制されているもので、拒否をすることは叶わない。
夢を見られなくなっていたことが、男にどれほどの安寧を与えていたことか。
男は今日も夢を見る。
夢の中で、人に手をかけるのだ。
幼い日々を共に過ごした、大切な存在に手をかける。
今はもう、どこにいるのかも分からない存在に。
あの愛しい存在に──。
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作者名：ウェイウェイ | 作成日時：2023年12月1日 22時
