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無事、現場からMERのスタッフルームに戻ってくるなり、ほとんどのメンバーはそれぞれの医局へと向かう。
東京海浜病院に所属していない喜多見先生、優秀な部下に恵まれ、大事なオペや重症患者の管理以外はとくにこれといった仕事がない私、そして医系技官の彼。
3人しかいないこの部屋には、なんとも言えない空気が漂っていた。
全員が、様子を伺っているのが分かる。
「あ〜っ、、、、」
その沈黙を破ったのは喜多見先生の大きなため息と、情けない声だった。
「どうしたんですか?」
「MERが発足するからって、院長から頼まれていた書類出すの忘れてました…。ちょ、出しに行ってきますね、俺!何かあったらすぐ戻りますから!」
「あははは…ごゆっくり…。」
慌てて走っていく彼。
そう言って見送った私の笑顔は、きっと酷く引き攣っていたのだろう。
「何があったんだ。卒業してから。」
喜多見先生の姿が見えなくなると、間髪を入れず彼が口を開く。
「あの、まずはさ久しぶり〜とかないの?」
「…元気にやってたのか。」
「うーん、まあまあだね。笑」
突然話しかけられて、密かに焦る私。
そんな私の言葉に軽くため息をつき、彼は手元のPCから顔を上げる。
「大学を出たあと、この病院で研修医をしていたのか。」
「うん。そうだよ。」
「なら、なんで。」
「そっちこそ、立派なお仕事についてるみたいで。音羽って苗字を聞いた時、まさかとは思ったけど。」
「一緒に勉強してたこと、忘れてたのか。」
忘れてない。
あなたを忘れるわけなんて、ない。
何度も、そう自分に言い聞かせる。
冬木先生が 音羽先生、と言った時。
心のどこかで、期待していた。
探していた彼なんじゃないか。
その人と同じ命を救うことができるんじゃないか、と。
「いやいや、忘れてないよ。」
「Aは、今の仕事は好きでやってるのか。」
唐突に呼ばれた名前。
なんだか久しぶりの感覚。
しかし、その質問の意図に僅かに硬直してしまう。
「なんで、心外にいるんだ。」
彼の声が、頭に響く。
ねえ、それ以上きかないで。
「あんなに優秀だったのに、何かあったのか。Aは…」
「尚、まって。」
僅かに目を見開き、私の言葉を待つ彼。
その優しさに、ほんの少し甘えて。
もう少しだけ。
いつか、必ず全部話すから。
ようやく絞り出した言葉に、彼はゆっくり頷いた。
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なーお - 続きがとても楽しみです!頑張ってください! (4月13日 15時) (レス) id: 6f6733fcb2 (このIDを非表示/違反報告)
Ria(プロフ) - きゃー 続きが楽しみ楽しみ (11月26日 9時) (レス) @page14 id: b18326fb22 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:mi | 作成日時:2023年11月15日 2時