Good night Dear (ページ6)

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Episode 3. ページ6

- Otowa Side -

トラック運転手のバイタルが安定した頃には、すっかり日も暮れ、赤タグ・黄タグの搬送処置も全て終わっているようだった。

「死者は…ゼロだそうです！」

MEDICAL ENGINEER、つまり臨床工学技士のジャケットを羽織った男性が、満面の笑みで高らかに声をあげる。

彼の声に、まわりのメンバーも一気に気が抜けたのが分かった。

「本日付でTOKYO MERに配属となった、厚生労働省・医系技官の音羽尚といいます。」

少し落ち着いたところで、改めて挨拶をする。

〝医系技官〟慣れないワードにほとんどのメンバーが眉をひそめる中、彼女だけは目の色を変えなかった。

「チーフドクターの喜多見です。いやぁ…さっきは本当に助かりました。初出動で死者はゼロ。良いスタートですね！」

「喜多見チーフのやり方では続かないと思います。」

音羽の言葉に、和やかだった空気が張り詰める。
しかし、この空気にももう慣れてしまった。

「レスキュー隊がトラックを切断している中でメスを握るなんて、聞いたことがありません。オペは安全で衛生的な場所で行うべきです。」

「おぉ…ですね。」

「それに、医師が死んだらほかの命も共倒れになってしまう。だからこそ医師は、安全な場所で待機するべきです。」

医者としての感情を押し殺し、この組織を審査する立場に戻って淡々と指摘をする。

困ったような笑みを浮かべた彼が、口を開こうとした瞬間、

「でも、待っているだけじゃ救えない命がある。その命を見捨てた瞬間、私たちは医者じゃなくなる。そうですよね、喜多見先生。」

聞き馴染みのある声が響く。

「東京海浜病院・心臓血管外科、ドクターのAです。音羽先生、よろしくお願いします。」

先程トラックの向かいに立っていたときの彼女とは違う、かつて隣で同じ目標に向かって必死に食らいついていた時とも違う、まるで別人のような彼女がこちらを見つめてそう言った。