Good night Dear (ページ37)

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~ ページ37

そう話す彼女の眼差しに、思わず惹き付けられた。

「比奈先生だって、ひとりじゃない。」

「…え？」

「あんなに混乱した現場でオペをすることの緊張感も、命に関わる判断をしなくちゃいけない恐怖も、私は知ってる。」

「…はい。」

「でも、ひとりじゃないでしょ？喜多見先生も、音羽先生も、冬木先生も、夏梅さんも、ミンさんも、徳丸くんも。」

「…。」

「それに、もちろん私だって。比奈先生は、ひとりで抱えなくていい。MERのみんなが居るから。みんな、比奈先生と同じ方向を向いてるよ。ひとつでも多くの命を救えるように必死に走ってる。だから、大丈夫だよ。」

彼女の絞り出した〝大丈夫〟に、どれだけの覚悟が含まれているのだろう。計り知れない苦しみを乗り越えてなお、現場に向かうその怖さを、私は知らなかった。

「弱いのは、比奈先生だけじゃない。もっと、もっと、強くなれるよ。」

A先生はそう言って、無意識に頬をつたっていた私の涙を拭った。

「…頑張ろう。私たちならきっと、大丈夫だよ。」

そう言って笑う彼女に、私は必死に涙を堪えて頷いた。

やっぱり、A先生のようになりたいと思った。音羽先生は代わりなんて無理だと言ったけど。代わりじゃなくてもいい、こんなにも寄り添ってくれた彼女が、これから先どうしても辛くて堪らない時に、隣に立っていられるドクターになりたいと思った。

- Otowa Side -

スタッフルームの外に、僅かに漏れる彼女と弦巻先生の話し声。

その声を聞いて、心が、だんだんと冷えていくのが分かった。

メンバーに明るく話していたのは、真実のほんの一部分であり、彼女は深い傷を負いながら生きてきたのだと悟った。

＿＿＿私、脳外の医者になるの。

そう言っていた彼女が、脳外科に進むことを諦めた要因もきっと、ここにある。

どんなに大きな荷物を抱えて生きてきたのだろう。

TOKYO MERで再会しなければ、彼女がこんなにも残酷な運命を背負っていたことなど、知る由もなかった。

しかし再会したからこそ、彼女の中にかつての音羽自身がもう存在していないことも知った。

ここまで知ってしまった上で、そんな彼女になんと声をかけたら良いのだろう。

2人が和やかに談笑する声が聞こえてきた頃、音羽は足音も立てずにその場を後にした。