Good night Dear (ページ36)

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Episode 18. ページ36

- Hina Side -

「さすがに、医者でいることを辞めようかと思った。あまりにも苦しくて、辛くて。」

今朝話してくれた〝事故〟の詳細を、記憶を手繰り寄せるようにして話す、彼女の横顔は、深い悲しみに包まれていた。

なんと、声をかけたらいいのか分からなかった。

「それで、救命を学びにニューヨークへ行ったの。」

「…そこで、喜多見チーフと。」

「…ええ。あの頃の私は、もうどうしたらいいのか分からなくて。両親を失った悲しみから立ち直るためにも立派な医者にならなきゃ、っていう気持ちもあった。でも、あの日見た酷い光景とか2人を救えなかったという事実がいつまでも頭を離れなかった。」

「…。」

「喜多見先生には、すべてを話したんだ。現場が怖くて堪らない気持ちも、大切な命を前に判断を迫られる恐ろしさも、技術や経験も浅い自分に対する苛立ちも、全部。それを受けいれてくれて、一緒に働いているうちに、やっぱり私は医者で居続けたいと思うようになった。」

「…A先生は、本当に強いです。お父様と、同じくらい。」

「ううん、喜多見先生が居なかったら、ニューヨークで一緒に働いてくれた仲間や、こっちに戻ってきてからの同僚が居なかったら、今でもあの頃のままだったと思うよ。」

「…」

「今だって、現場に立つのが怖いこともある。覚えている記憶が蘇って、苦しくなって、目を背けたくなることもあるけど、でももう逃げないって決めたから。」

「…なんで、そんな。」

「これ以上、大切な人の命を亡くしたくないの。その為にも、私は現場に出て、オペをして、強く居られるようになりたい。父みたいに。」