Episode 17. ページ34
-Your Side-
「…よく頑張ったね。あとは変わります。」
震える比奈先生の手を取ると、彼女は今にも泣きそうな表情で振り向いた。
「…A先生!」
「ぼーっとするな。まだここからだ。」
治療を終え、ERカーの前で合流した尚が、私の後ろから声をかける。
「後腹膜の出血が酷いから、おそらく左の腎臓かな。」
「…マトックス法で左後腹膜を脱転、左の腎動脈の確保と腎検索しよう。」
「腎裂創からの出血ね。動脈と静脈は別々に確保する。」
「ああ、腎臓は縫合で止血しよう。」
「…了解。」
向かい側に彼が立つオペは、なんだかいつもより心強く、居心地が良い。その空気感は、ほかのメンバーにも伝わっていたようで。
「すげぇ…。」
「音羽先生も、A先生も、本当に息ぴったりなんですネ…。」
思わず呟く徳丸くんとミンさんの声で、先程までの凍りついていた空気は、随分緩んだような気がした。
「夏梅さん、縫合3-0ください。」
「はい。」
「…血圧は?」
「62の46。さらに上がっています。」
「…止まったな。」
「ええ。腸間膜の結紮しましょう。」
「ああ。」
彼は、ほんの僅かに口角をあげ、そっと頷いた。
〜
「…A先生。」
無事に出動を終え、ひとりスタッフルームで休憩する私の隣に、比奈先生がやってきた。
「比奈先生…!おつかれさま。」
「さっきのオペ、本当にありがとうございました。」
「ううん、助けられてよかった。」
「A先生と、音羽先生が来なかったら、私ひとりの患者さんを殺してしまうところでした。」
「…そんな。1箇所止血できてたじゃない。」
「私は…A先生みたいなドクターになれる気がしません。」
「…。」
「…現場に行くのが怖くて、自分が目の前の患者さんを殺してしまうかもしれないのが怖くて、命にかかわる決断を迫られるのが、怖くて怖くて堪りません。」
俯いてそう言った彼女の言葉は、かつて私も同じように悩んでいたことだった。
彼女になら、話してもいいかもしれないと思った。
「比奈先生、少し昔話をしてもいい?」
その言葉に、比奈先生は俯いていた顔をあげた。
「…昔話、ですか。」
「うん。私が、比奈先生と同じ研修医だった時の話。」
彼女が何も言わず頷くのを見て、途切れ途切れの記憶に手を伸ばした。
「今朝も少し話したけど、研修医時代、私は酷い事故に巻き込まれたの…。」
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なーお - 続きがとても楽しみです!頑張ってください! (4月13日 15時) (レス) id: 6f6733fcb2 (このIDを非表示/違反報告)
Ria(プロフ) - きゃー 続きが楽しみ楽しみ (11月26日 9時) (レス) @page14 id: b18326fb22 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:mi | 作成日時:2023年11月15日 2時