検索窓
今日:74 hit、昨日:78 hit、合計:27,437 hit

Episode 17. ページ34

-Your Side-



「…よく頑張ったね。あとは変わります。」



震える比奈先生の手を取ると、彼女は今にも泣きそうな表情で振り向いた。



「…A先生!」



「ぼーっとするな。まだここからだ。」



治療を終え、ERカーの前で合流した尚が、私の後ろから声をかける。



「後腹膜の出血が酷いから、おそらく左の腎臓かな。」



「…マトックス法で左後腹膜を脱転、左の腎動脈の確保と腎検索しよう。」



「腎裂創からの出血ね。動脈と静脈は別々に確保する。」



「ああ、腎臓は縫合で止血しよう。」



「…了解。」



向かい側に彼が立つオペは、なんだかいつもより心強く、居心地が良い。その空気感は、ほかのメンバーにも伝わっていたようで。



「すげぇ…。」



「音羽先生も、A先生も、本当に息ぴったりなんですネ…。」



思わず呟く徳丸くんとミンさんの声で、先程までの凍りついていた空気は、随分緩んだような気がした。



「夏梅さん、縫合3-0ください。」



「はい。」



「…血圧は?」



「62の46。さらに上がっています。」



「…止まったな。」



「ええ。腸間膜の結紮しましょう。」



「ああ。」



彼は、ほんの僅かに口角をあげ、そっと頷いた。







「…A先生。」



無事に出動を終え、ひとりスタッフルームで休憩する私の隣に、比奈先生がやってきた。



「比奈先生…!おつかれさま。」



「さっきのオペ、本当にありがとうございました。」



「ううん、助けられてよかった。」



「A先生と、音羽先生が来なかったら、私ひとりの患者さんを殺してしまうところでした。」



「…そんな。1箇所止血できてたじゃない。」



「私は…A先生みたいなドクターになれる気がしません。」



「…。」



「…現場に行くのが怖くて、自分が目の前の患者さんを殺してしまうかもしれないのが怖くて、命にかかわる決断を迫られるのが、怖くて怖くて堪りません。」



俯いてそう言った彼女の言葉は、かつて私も同じように悩んでいたことだった。



彼女になら、話してもいいかもしれないと思った。



「比奈先生、少し昔話をしてもいい?」



その言葉に、比奈先生は俯いていた顔をあげた。



「…昔話、ですか。」



「うん。私が、比奈先生と同じ研修医だった時の話。」



彼女が何も言わず頷くのを見て、途切れ途切れの記憶に手を伸ばした。



「今朝も少し話したけど、研修医時代、私は酷い事故に巻き込まれたの…。」

~→←~



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (48 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
319人がお気に入り
設定タグ:TOKYOMER , 東京MER , 音羽尚
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

なーお - 続きがとても楽しみです!頑張ってください! (4月13日 15時) (レス) id: 6f6733fcb2 (このIDを非表示/違反報告)
Ria(プロフ) - きゃー 続きが楽しみ楽しみ (11月26日 9時) (レス) @page14 id: b18326fb22 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:mi | 作成日時:2023年11月15日 2時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。