Good night Dear (ページ32)

今日:7 hit、昨日:91 hit、合計:27,461 hit

Episode 16. ページ32

- Your Side -

私が所属する東京海浜病院の心臓血管外科は、他の科に比べればかなり小規模、よく言えば少数精鋭である。

比奈先生が所属する循環器外科の患者や、救命に運ばれてきた患者の、各科で対応できない緊急オペと経過観察を行う、院内でもかなり特殊な役割。

だからこそ、ニューヨークで培った経験が活かされているような、そんな感覚になる。

「ふーーーーっ。」

かなり難しい、とされていた今日のオペは無事成功。晴れ晴れとした気持ちでスマホを見れば、30分ほど前にMERの出動通知。

現場が、私を呼んでいた。
私は、一息つく間もなく病院の廊下を駆け抜けた。

～

現場に向かう緊急車両に乗り込み、MERのイヤホンマイクをつければ、比奈先生の緊迫した声が聞こえてくる。

「大丈夫ですか？医師の弦巻です！」

「比奈先生！手伝いマス！」

「この子すぐに車内収容して、酸素投与10Lお願いします…！」

「わかりました！」

先日は現場の隅で怯えていた彼女が、少しずつ、でも確実に、成長しているのが分かった。

「大丈夫ですか～？わかりますか！…夏梅さん、携帯エコーを。腹部が腫れてきているので、腹部臓器を損傷しているかもしれません。」

「…はい！」

「…出血してる。」

「血圧下がってます。78の54！」

「ERカーに運びます…！」

「「…え？？」」

「ショック状態です。出血をとめないと。」

マイク越しに伝わる緊迫した空気感。
そんな時、隣で力になれない自分に腹が立ち、思わず拳を握りしめる。

1秒でも早く、現場に着くことを祈った。

彼女にとって、余りにも大きすぎる壁にぶちあたり、それが心を抉る深い傷となる前に。

どうか、間に合いますように。