Good night Dear (ページ31)

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たどり着いた現場は、あちこちから沢山の人の悲鳴が聞こえてくるかなりの惨状だった。

「…トリアージは俺と音羽先生で。ミンさん、音羽先生に。夏梅さん、俺についてください。」

「はい。」

「冬木先生と徳丸くんは緊急オペに備えて準備、比奈先生は黄色タグへの患者の対応と、救急隊への引渡しをお願いします。」

「はい。」

全員が自分のやるべきことのために走っていく。

「医師の音羽といいます。大丈夫ですか？…ミンさん、この方生食お願いします。」

「はい。」

「すぐ処置しますから…。」

患者にかけた言葉が消える前に、

「倒れるぞー！！！！」

悲鳴とともに、衝撃音が耳に入る。
顔をあげればそこは倒れた山車に挟まれた人々が苦しげな表情を浮かべていた。

「比奈先生、ここから向こうのトリアージを任せます。」

「えっ…！でも…！！！」

困惑する彼女にタグを押し付け、走っていく喜多見チーフの姿を横目に、音羽も自身の近くに居た患者に駆け寄る。

「大丈夫ですか？お名前言えますか？」

「音羽先生…！トリアージお願いします！」

背後から、弦巻先生の叫び声が聞こえた。

「呼吸悪い。ミンさんすぐに酸素はじめて。」

「はい！」

「音羽先生…！」

「医師の音羽です。大丈夫ですか？シーネお願いします。」

「音羽先生。私には無理です。私は…A先生のような勇気も、判断力も、強さもありません！私は、A先生の代わりにはなれません。」

「…言い訳はやめろ！誰も、あいつの代わりになれるとなんて思ってない。あいつは、俺たちじゃ想像できない苦しみを乗り越えてきてるんだ。代わりになんてなれると思うな。」

「…」

「お前は医者だろ。だったら、全力で命を救え。」

彼女の代わりになんて、なれる訳がなかった。
それは、弦巻先生だけじゃなく、喜多見チーフだって、もちろん音羽だって。

〝彼女が自分のことを覚えていないであろう悲しみ〟よりも、〝彼女が自分の知らないところで、想像もできないような経験に傷つけられていた〟という事実が、音羽を苦しめていた。

治療の腕にますます磨きがかかったのと引き換えに、なんだか臆病になったようにも見える表情。その原因を僅かながらに知り、気分は沈むばかりだった。

「…医師の弦巻です。分かりますか？」

遠くから、そんな声が聞こえた。
走り出す後ろ姿は、先程よりも少し大きく見える気がした。