Good night Dear (ページ28)

今日:59 hit、昨日:78 hit、合計:27,422 hit

Episode 14. ページ28

-Your Side-

幸い事故によって、身体的に何か後遺症が残ることはなかった。

しかし、あの日見た光景のトラウマから、いくつかの記憶が抜け落ちている感覚、思い出そうとしても思い出せない違和感だけが残っていた。

どうにか研修医過程を修了した私は、そのままニューヨークへ飛び立つこととなった。

そう、その先で出会ったのが…

「医師の喜多見と言います。」

アメリカでは聞き慣れない流暢な日本語を放った彼は、爽やかな笑みを浮かべて私に手を差し出した。

「ニ、ニューヨーク市立高度救命救急センターのAです。」

とある災害現場に出動要請がかかった私たちと、その応援にかけつけた喜多見先生の所属する国際医療チーム。傷病者の搬送を終え、帰路につこうとした私を引き留め、彼は話しかけてきた。

「素晴らしい腕捌きだと思ったら、日本のドクターだったなんて。びっくりしましたよ、さすがですね。」

ボロボロになったユニフォームとは似つかない和やかな雰囲気で話しだす喜多見先生。

「いや、あの喜多見先生こそ診断も処置もはやくて…私には到底…。」

凄まじい速さで行っていたトリアージ、言語の壁を越えてとばす的確な指示、彼と私の間には圧倒的な経験の差があった。

「あなたは、手先が器用なんですね。いつ頃から救命のドクターを？」

彼の口から発せられた言葉は、私の触れてほしくない核心をつく。胸が、ドキンと大きく音を立てる。

「手先の器用さは、恐らく父譲りかと。つい最近まで日本で研修医をしていて、そのままニューヨークへきて救命を学んでいます。」

「おぉ…そうだったんですか。てっきり脳外かどこかのドクターなのかと。」

はっきりと放たれた〝脳外〟というワード。

「いえ、脳外科を経験したことはなくて…。」

咄嗟に頭をフル回転させ、そう答えると私はそそくさとその場をあとにした＿＿＿