Good night Dear (ページ3)

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迎えの車に飛び乗り、ようやく現場にたどり着いた頃には、多くのスタッフがそこら中を駆け回っていた。

すぐに目に入ったのは、煙をあげている大型バス。そしてその側には衝動事故を巻き起こした原因との情報があったトラック。

トラックの運転席に座っているであろう患者を診る大柄の男性は、爽やかな白いジャケットを羽織っていた。

〝TOKYO MER DOCTOR〟

遠目でも目に入るその文字は、彼が今日から同じ職場で働く医師であることを示している。

いま、この瞬間だけは自分に課せられた任務から目を背けて。

迷うことなく、その背中に向けて足を進めた。

一歩近づくごとに、容態の深刻さと現場の緊張感が伝わってくる。

大声で言い合いをしているレスキューと、それでも治療の手を止めないドクターである彼に向けて、

｢医師の音羽で…｣

勢いよく放ったはずの言葉は、

彼の向かいで治療をする女性の姿が目に入るなり、静かに飲み込まれた。

僅かに目にかかる、薄茶の髪。

その隙間から覗く大きな瞳は、目が合うなりそっと見開かれた。

なんでここに。

形の良い桜色の唇は、言葉にならない声でそう動いた。

まるで、時が止まったようだった。

｢音羽先生ですね！では早速、A先生と場所を代わって。｣

現実に引き戻したのは、隣に立つチーフドクターの声。

彼女はその言葉に無言で頷き、バスに残った患者の元へと駆け出していった。

ひどく見慣れた背中が、また会いたいと心から願っていたその姿が、遠ざかっていく。

今の自分に託された仕事は、目の前の命を救うこと。たったそれだけだった。

彼女と、きちんと話をするためにも。