蒲公英の笑顔 ページ44
「あ……Aさん」
「良かった。気がついたみたいだね、善逸くん」
全身にヒビのような傷が入った善逸は、うっすらと目を開けた。珠世が開発した『血鬼止め』を投与され、広がり続けていた傷が抑えられたのだ。
「上弦の討伐、おめでとう。鳴柱って呼んじゃおうかな」
「まだ……五十体も倒してないよ、俺……」
「無惨を倒したら百体倒したも同然。君の成長は凄いよ」
初めて列車で会った時はただ泣き喚くだけの、まだ未熟な隊士なのだと思っていたが、炭治郎のお陰だろうか。今は凛々しい表情をしている。
「Aさんは、どうしてここに……?」
「無惨との戦いに備えて、体力を温存しておけってお館様がお決めになったんだ。
ちょっと、情けないよね。皆は命を賭けて必死に戦ってる。今もどこかで仲間が命を落としているかもしれない。それなのに……」
Aは持っていた包帯を手の中でくしゃりと握った。
「情けなくなんかない。Aさんは期待されてるんでしょ?俺は無惨の顔を見るまでは生き残る。それで、Aさん達が全力で戦えるように頑張るよ」
既に立ち上がっている善逸は、Aに明るい笑みを向けた。春の野に咲く蒲公英のように輝いているように見えた。
「頼もしいな、善逸くん」
「じゃあ、行ってきます」
善逸は小さく手を振り、駆け出した。その背中にAはそっと声をかける。
「行ってらっしゃい。頑張って」
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作者名:ほんわか若頭 | 作成日時:2021年2月10日 12時