お館様 ページ31
禽屋敷に来る隊士達が減ってきた頃、Aは本部に呼び出された。
廊下を歩いていると、悲鳴嶼の後ろ姿を見かけた。駆け寄って腕をポンポンと叩く。
「悲鳴嶼さんも来てたんだね」
「嗚呼。Aも同じ用件で呼び出されたのだろうな」
案内された部屋には、顔に包帯を巻いてすっかり弱りきったお館様が横になっていた。二人はその横に座り、頭を下げた。
「お館様、参上いたしました」
「ああ……二人とも、来たんだね」
病に冒されていても、彼の声は聞く者を安心させる。
「二人には、頼みたいことがあるんだ……。聞いて……くれるかい?」
「御意」
二人は声を揃えて返事をした。
お館様は、五日以内に無惨が本部に現れると予言した。Aも悲鳴嶼も、この予言は必ず当たると確信した。
「他の……子供たちは、私自身を囮に使うことを……承知しないだろう……。二人にしか……頼めない。行冥、A……」
Aと悲鳴嶼は、再び声を揃えて
「御意」
と応えた。悲鳴嶼は涙を流した。Aは涙こそ零さなかったが、隊服を握りしめて悲しみを堪えた。
「ありがとう……。どうか、もうこれ以上……私の大切な子供たちが、死なないことを……願って……」
無限城の廊下を走りながら、Aは最後に聞いたお館様の言葉を思い出した。
(僕だって、あなたを喜んで囮にしたかったわけじゃないし、止められるなら止めたかった!……でも)
「A、聞いて……くれるかな」
お館様は、悲鳴嶼と共に帰ろうとしたAを引き止めた。
「はい、勿論です」
「A、無惨を……倒すために協力してくれている鬼がいる……。しのぶと協力して、奴を弱らせる薬を作っているんだ。君にしか頼めない」
「鬼……?竈門禰豆子の他にもいるんですか」
お館様はその言葉に頷いた。
「A、君が頼りだ。よろしくね」
(そんなこと言われたら、誇らしくて、嬉しくて、断れるものも断れないでしょ)
どこまでも狡く、しかし、優しいお館様が、Aは大好きだったのだ。
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作者名:ほんわか若頭 | 作成日時:2021年2月10日 12時