窓際から見た景色 (ページ9)

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春の夜ページ9

～ side テヨン～

ソファに座ってAの頭を撫でるユータの表情で分かる。あぁ、超えちゃいけない一線は薄くて目の前にあるんだ。
俺達はずっと一緒で年齢もそこまで変わらないからこそ仲良く育って来た。だけど、あの日知りたくないのに、俺達は知りたくなかったのに。

俺達2人がまだ小学2年生になった年の夏、父が知らない女の人と女の子を連れて来た。

"テヨン、ユータ、2人の妹だよ。仲良くしなさい"

幼稚園の頃から下に妹や弟が居る友達を見ては憧れを抱いていた俺達2人にとってその時手を引かれてやって来たAは天使のような存在で、Aが小学校に入学すれば何をするにも一緒で、近所だけでなく地元では有名な3人になっていた。

考えたらいきなり知らない女の人と女の子が現れて新しい家族ってなれば首を傾げるだろうけれど、俺達は子供だった。それに目の前に舞い降りた天使に対しての嬉しさの方が増していたし、そんな疑問を抱く事を忘れていたのだ。
新しいお母さんは父より若くて家事だけでなく近所付き合いもそつなくこなす良い人で、悪い感情を抱かないからこそ疑わなかったのかも知れない。

バリーンッ！！ガッ、シャあああン！！！！

3人で同じ部屋、同じベッドで寝ていた時にそれは起こった。まだ眠りに就いて1時間も経って居なかったから外は真っ暗闇で俺は急な物音に起き上がると、その振動や音でAとユータも起きた。

YT「どーしたの…てよなぁ、ねむっ」

TY「ユタ、ちょっと静かに」

YT「……」

俺の異変に気付いたユータは先程の寝惚けた目を急に起こしベッドから降りた俺に続いて部屋から出た。
慎重に、足音を立てずに、呼吸するのすら最小限にして気配を消すと2階からでも覗ける1階リビングの光景に目を見開いて膝はカクカクと鳴き始め、無意識に手の平に爪を食い込ませていた。
父は母を殴っていたのだ。それに無抵抗な母が呟いた言葉が、声の震えが、空気の流れが、全部が忘れられない。

"私だって…あんな…Aみたいな子……あの人が死ななきゃ引き取ってないわ…"

"それでもお前が連れて来た子だ。厄介な…テヨンとユータとは極力離して生活させろ"

"そんなっ、3人はお互いに愛し合ってる…良い兄妹なのに…"

"お前に何が分かる！！2人には俺の会社を継いで貰わなければいけないんだっ！このっ！！！"

父はそう言ってまた母を殴った。

もうすぐ中学に入る、春の風が吹く夜だった。

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