川西にメガネ粉砕された件 【川西太一】

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「なぁ太一、漢文の教科書貸して」



そんな声が前の席から聞こえて、つい予習する手を止めて顔を上げた。

そこにいたのは、川西と同じバレー部の白布。

去年同じクラスで、まぁ廊下ですれ違ったら挨拶を交わすくらいの仲。



「え、漢文？ 待って俺もないわ、部室」

「げーまじかよ、」



落胆する声に、つい横から割り込んでしまった。



「白布、私、漢文の教科書持ってるけど使う？」



幸い5組の今の単元は古文。漢文の教科書は使わない。

私の声に、驚いたように二人は私を見る。

机の中から取り出した漢文の教科書を差し出すと、白布と目が合った。



「――待って、お前、誰？」

「はぁ！？ 白布ひど！！」



つい声を張り上げた私に、川西が失笑した。



「ちょっとそこ笑わない！ 川西も同罪！」

「だっておま、白布もひどいけど、」



腹を抱えて言う川西と、机に拳をたたきつける私を交互に見て、白布が言った。



「……で、誰？」

「吾妻ですけどー」

「は？ A？」



何度も何度も失礼なやつだ。

なんか腹が立ったので漢文の教科書で白布の頭を叩く。

スパァンッと小気味いい音がした。ざまぁ。



「痛って！」

「成敗！」



胸の前で腕を組んで、頭をさする白布に教科書を手渡した。

受け取った白布は、教科書の裏の私の名前と私とを見比べて、ほんとだ、とつぶやく。



「ホントだ、Aだ。メガネじゃないからわかんなかった、ごめん」

「誰かさんに粉砕されたんでね、今日だけコンタクトなの」



私と白布の視線が川西に集まる。川西は目をそらしてぴゅぴゅう、と口笛を吹いた。

そういえばそんなこともあったな、と白布は私に視線を戻す。



「A、メガネない方が可愛いと思うんだけど」

「へっ？」



白布の言葉に、度肝を抜かれた。



「割とマジで。お前メガネのあるなしで人相変わるタイプだろ」

「それ褒めてる？」

「まぁ。……いっそコンタクトにしたら？」



なんとまぁ、川西と同じことを。私はやはりメガネが似合わないらしい。



「考えとこうかな」

「いいと思うよ、じゃ、終わったら返しに来る」



教室を出ようとする白布にひらひらと手を振って、首を傾げた。そんな私を一瞥した川西に聞く。




「私、そんなに見た目変わるのかな」


「……お、そう、だな」



歯切れの悪い返事が返ってくる。もう一度首を傾げれば、川西は黙って前を向いてしまった。



とにかく、私はひたすらメガネが似合わないらしい。

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