ペットショップの捨て猫さん【羽宮一虎】

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「えぇ…本当、ありがとうございます…。」


虎「いーえ。その代わりまた来てね」


「来ますよ！近所にペットショップ無いんでめちゃくちゃ助かってます」


虎「そーぉ？店長良かったね、助かってるって」


冬「アンタはまずお客様にタメ語使うのやめてください」



店長が、タロウちゃんを睨む。


タロウちゃんに比べたら一見地味だけど、この店長も結構ガラ悪いよなぁ…。


でも感じがいいし、品揃えもいいからあんまり気にはならないけど。



虎「いーじゃん、オレとの仲だし！」


冬「送ってもらっただけでしょうが！名前も知らないくせに」


虎「あ、そういえば名前知らないや。なんて言うの？」



タロウちゃんはレジ越しに私の顔を覗き込んでくる。


ほんと、顔綺麗だなこの人…。


惚れ惚れするくらい。



「美崎です。」


虎「ミサキちゃん？苗字は？」


「いや、苗字が美崎なんです。美しいに崎で…」



口頭で伝えると、名前みたいな苗字だもんね。



虎「下の名前は？」


「え？A、です…」



腐っても、お客と店員。


だから苗字を教えたのに、下の名前まで聞かれた。


私が躊躇いながらも答えると、タロウちゃんは満足気に笑う。



虎「Aちゃん」



優しく、大切そうに、私の名前を呼ぶ。


親にもそんな優しく呼ばれたことないよ、ってくらい。


何の変哲もない私の名前が、まるで特別とでもいうように。


甘ったるい空気に、声に、胸焼けしそう。


なんだか急に恥ずかしくなって、ブワッと顔が熱くなるのを感じた。



虎「え、ちょ、今照れる要素あった！？」


「いや…なんでもないです」



タロウちゃんがいうように、照れる要素なんてひとつもない。


私めちゃくちゃ男慣れしてない人みたいで、恥ずかしい。


…実際、そうなんだけどさ。



「……じゃあ、今日は帰ります……」



もうすぐさまこの場を離れたい。


タロウちゃんは「あぁ…」と驚いた様子で呆然としていた。


そりゃそうだ、名前呼んだだけで照れられたら気持ち悪いに決まってる。



私はそそくさと店を出て、家の方に向かって行くと、後ろから店の扉が開く音がして、



虎「Aちゃん！また来てねー！！」


冬「うるさいですよ！！」



ブンブンと手を振ってるタロウちゃんが見えた。


私は小さく会釈をして、そのまま家に向かった。

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