【ヒロアカ】longinglove ３ (ページ39)

今日:11 hit、昨日:6 hit、合計:23,019 hit

１３６ページ39

一人暮らしにも慣れ始めた頃には爆豪君や切島君も雄英の方針で寮生活を送る事になり、連絡は度々来るが、あの日以降顔を合わす事は無かった。

夏休みでも学校がある彼等とは違い私は現在も夏休みの真っ只中で、外の暑苦しさとは無縁の快適な部屋で課題と向き合っている。

一人暮らしは快適と言えば快適だ。あの人が居ないというだけで穏やかに過ごす事が出来る上に夏休みという事もあって時間に追われる事も無い。それでも寝室に鍵を掛けて眠る癖だけは治る事は無く、気付くと無意識に鍵を掛けてしまっているのだ。

静かに通り過ぎていく時間に身を任せるだけの生活。恐らく私はまだ、生かされているのだろう。

今しがた終えたばかりの課題を保存してパソコンを閉じる。寝室から出てダイニングへと向かうと、途端に籠る様な蒸し暑さが襲い掛かってきた。

それに僅かに眉を寄せ、冷蔵庫から冷たい麦茶を出した時、今日の夕飯の献立を考えるのも困難な食材不足が嫌でも目に入ってしまい「あ…」と声を漏らす。

必要な時に必要な分だけ使いなさい。と父から渡された通帳には生活費のつもりなのだろう。一ヶ月分にしては些か多い様な気もする大金が入っていて、今はそれを有難く使わせて貰っている。

ぼんやりと身支度を整えながら父の仕事は何だっただろうと考える。あの人と私の生活費を出しながら、自分の生活＋一人暮らしや高校、大学の過程に必要な学費を貯めていたとなると、相当な高給取りだったのではないかと思う。

思えば、私は父についてあまりにも知らない事が多い。家を出る前の記憶など随分昔の事なので当てにはならないだろう。

「………」

父は望みが叶って、あの人と幸せに暮らしているのだろうか。あの人も普通の幸せを手にしているのだろうか。それを確認する事は出来無いけれど、私の存在が消えて、二人が幸せに暮らせるなら…それは良い事なのかも知れない。今まで散々苦しめて来たのだ。幸せになってもらたい。

玄関の靴箱に備え付けられている姿見を確認すると、袖口から僅かに見える火傷の痕に頭が痛くなる。

「………」

少しだけ……あの人を狡いと思ってしまった。