128 side無し ページ31
彼女の過去の傷はトラウマと一言で済ますには重た過ぎるものだ。況してや、無償の愛を注いでくれる筈の存在に憎まれ、何度も殺され掛けた挙句、自衛の為とは言え、偽りの親子関係を築いてしまったのだから。
緑谷が自分を想ってくれるのは記憶のせいで感情が誤認識した為であって、自分を本当に想っている訳では無い。爆豪なりの不器用な優しさも、彼女はヒーロー志望だからと思わなくては困惑してしまう。そして、切島が気に掛ける事も哀れみでしか無いと思い込んでいる。
無条件で何かを与えられる事を彼女は知らないのだ。心配と一重に言えど、そこに含まれる意味は様々だろう。爆豪や切島は彼女の精神面を心配し、あれこれ世話を焼いているが、彼女は放って置いたら死ぬのではないかの心配だと捉えてしまっているのだ。
「…分からないんだと。自分をあまりにも過小評価し過ぎてて、俺や爆豪が構ってんのも…無音の事情を知ったから無視出来ねぇんだって思ってる。間違ってねぇけど、俺達がそうしたいからだって言っても彼奴は自分の為の理由を探せねぇんだよ」
誰にも愛されず、必要もされなかった彼女がそう思ってしまうのも仕方が無いのかも知れないと思いながらも、そうでは無いのだと切島は彼女に対して掛けられる情…即ち、友情を惜しみ無く注いでいるつもりだ。だが、彼女が友人と呼べる人間はクラスメートの山田だけであった為、その辺の事もよく理解出来て居ないのだ。
「…なぁ、爆豪は緑谷と無音の仲を取り持とうとしてる訳じゃねぇよな…?爆豪にそういうイメージねぇから何とも言えねぇが…」
「それな。大体、緑谷が絡んでる時点で爆豪にとったら地雷案件じゃね?」
二人の言葉に「何つーか…」と言い出し辛そうに頭を搔いた切島は彼女を一瞥すると、二人に廊下に出る様にジェスチャーをし、自身も廊下に出る。
「爆豪は吹っ切れさせ様としてんじゃねぇかな。本人に聞いた訳じゃねぇけど、緑谷がどうとかじゃなくて、単に無音が前に進める様にしたいんじゃねぇかって俺は思ってる」
あの爆豪がそこまでするか?と言いたげな二人に切島は「正直、俺も爆豪が無音を気に掛ける理由知らねぇんだよな」と困った様に眉を下げた。
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作者名:パル | 作成日時:2019年3月31日 10時