【ヒロアカ】longinglove ３ (ページ29)

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面会時間開始から終了まで、片時も彼の傍に居続ける私を彼の見舞い客は様々な目で見る。哀れみ、疑問、微笑ましさ、慈愛。特に最後の言葉を最も表して居たのは彼の母親だった。

彼を一方的に好きなだけです。そう告げると彼の母親は酷く驚いていたが、彼から話を聞いていたのか「アナタが…無音Aさんね」とそれ以上の事は何も聞かずに優しく抱き締めてくれたのだ。

その温もりにどうしようも無く泣きたくなってしまったが、彼がこんな状態で気丈に振る舞うこの人の前では泣いてはいけないと必死に押し殺す。

前々から、一度会ってみたいとは思っていた。彼をこの世に生み出した人だから、本当の母親とは何だろうと、その優しさの一端にでも触れてみたいと彼の記憶を通してこの人に羨望を抱いていたのだ。

大きな瞳が彼とそっくりで、髪色や何処と無く丸っこい感じが彼を彷彿とさせる。大袈裟の様に聞こえるかも知れないが、聖母を連想させたのである。

『出久をよろしくね、Aさん』

そう彼の着替えや見舞いの品を置いて去って行く彼の母親は病室に居る間、辛そうに眠る彼を見詰めていた。泣くのを堪える姿はやはり彼のひたむきさを思い起こさせる。

この数日、何度か意識を取り戻す事はあったが、それも一言二言話せば直ぐに身体が休めと言う様に眠ってしまう。

熱も下がり、今では穏やかに眠っている彼の頬に手を伸ばし「皆、待ってるよ…出久君」と静かに声を掛ける。

彼が眠っている間、彼の記憶を読み取る事はしなかった。読み取らなくても彼がこんな風になってしまったのは、誰かの為だと分かっていたからだ。

自分の為に無茶をする様な人では無い。きっと、守りたいものの為に彼はその身を犠牲にしたのだろう。だけど、記憶を読み取ってしまえば…私は彼の頑張りを否定したくなってしまう。

無茶はしないでほしいと思ってしまう。ただ、純粋に彼の夢を応援出来無くなる。怖いのだ…彼を失う事が何よりも。だから、私は知る事を拒んだ。

彼の夢の妨げにはなりたくないから。私が口を挟んで良い領域では無いから。

そっと頬に添えていた手を離し、彼の眠りを邪魔しない程度にベットに突っ伏して、彼の手に触れる。感じる温もりに目を閉じると自然と意識が遠のいていくのだった。