【１９１】 ページ5
切っ掛けがクッキーなら、依存した人間は必ず女の子の元へやって来る筈。その時、クッキーでは無く、薬のそのものを売る人が居ても可笑しくは無いだろう。
焦凍君は私が何を言いたいのかを察してくれた様で、他の皆にもそれと無く伝えてくれると、約束してくれた。そして、見送る様にフロントまで一緒に行くと、焦凍君は「行ってくる」と、皆の後を追い掛ける様に走って行く。
その背中を見詰めながら思う。こうして見送る事しか出来無いのだと。戦う術も知らず、守られて、人伝に聞いた情報しか伝える事が出来無い。分かっていた事だけど、遠ざかって行く背中に軽く手を伸ばしてみる。
届く筈も無い。同じ場所に立つ事も、同じ景色を見る事も叶わない。私は頑張る皆の為に何が出来るだろうか。カイ君から話を聞く事くらいしか、皆の手助けになる様な事は出来無いけれど、焦凍君の背中をこうして見送るだけというのは、やっぱり寂しい。
「……気を付けてね」
伸ばした手を力無く下ろし、聞こえる筈も無いけれど、そう呟いて踵を返す。すると、いつからそこに居たのか、お父さんとオールマイトが何処か優しく見守る様にそこに立っていて「心配かい？」と、尋ねてくる。
「……送り出す事しか出来無いので、せめて心配くらいはさせてほしいなって、思ってます」
そう苦笑しながら言えば、オールマイトは「君はそれで良い」と、私の前へやって来る。
「あの子達の帰るべき場所になってあげると良い」
「どういう意味ですか……？」
「私も人の事をどうこう言えたものではないが、ヒーローという生き物はどうにも自分の心配は二の次になってしまうものでね。後先考えずに無茶してしまう事も時にはある」
その時、君があの子達の帰るべき場所であるのなら、あの子達は無茶はしても、必ず帰って来てくれるさ。と、そう言葉を続けるオールマイトに何だか見透かされている様な気持ちになった。
オールマイトの言う通り、私は皆に帰って来てほしいのだ。それは私が寂しいからでは無く、無事に役目を終えて、ただいまといつも通りの暖かい笑顔で戻って来てほしいのだ。
「……そう、なれると良いですね」
「なれるよ。と言うより、もうなっているんじゃないかな？」
それは私には分からない事だ。けれど、オールマイトがそう言うのであれば、そんな存在になれる様に、皆が帰りたいと思える様な場所を、私が用意してあげられる様になりたいと、そう思うのだった。
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作者名：パル | 作成日時：2022年4月2日 23時
