【２１８】 ページ32
お父さんに決意表明をした日、私は確かにこの世界で相澤双葉として生まれ変わろうと思った。心から変わりたいと思う事が出来た。なりたい自分を見付ける事が出来て、やりたい事も目標も今の私にはある。
孤独も不安も、それは私が異世界人である以上消え失せる事は無いものだろう。けれど、それすらも私は連れて行く。それ等を抱えながらも前へと進む。今はまだ、皆に照らしてもらう事でしか歩めなくとも、いつかは私が皆を支えられる様になりたいと、そういう自分になりたいと、強く思うから。
「弱くても足掻くって……そう決めたから」
「……成程ねぇ。“俺が惚れた女はそこまで弱くねぇよ”……か。確かに俺はAちゃんを少し見誤っていたのかも知れない」
そう言うとカイ君は何処かに出掛けるつもりなのか、部屋から出て行こうとするので、キオさんが「おい、何処行く気だよ」と、煙を吐き出しながらその背中に問い掛ける。
「キオ、夜までAちゃんと遊んでて。今夜、あの計画を実行に移す。俺は今から準備するから、キオは此処からAちゃんを出さない事に徹して」
キオさんはカイ君の言葉に目を見開くと「正気か……？」と、その真偽を疑う様に言葉を投げ掛けていて、カイ君が言ったあの計画という言葉に胸騒ぎを覚える。
「時期が早まっただけで、元からそのつもりだったじゃん。それにもう船は確保出来てるし、この街のまともな人間もそれを望んでたしさ」
「……分かった。今夜なんだな？」
「うん」
何の話をしているのか、全く理解する事は出来無かったけれど、それでもカイ君が良くない事をしようとしている事は分かった。あの計画と言うくらいだ、その規模は決して小さいものでは無い筈。
「カイ君……！」
何とか止めようと駆け出そうとしたけれど、キオさんに腕を掴まれ、止められてしまう。
「Aちゃん……さっきの言葉、彼奴等が居なくなっても同じ様に言えると良いね。弱くても足掻くんでしょ……？」
「っ、待って！何をする気……？」
振り返ったカイ君の目に息を飲む。綺麗な赤い瞳が黒く染まる程に影を落とす。何処か虚ろな瞳で「大掃除だよ」と、薄ら笑いを浮かべたカイ君はそのまま部屋から出て行ってしまったのだった。
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作者名：パル | 作成日時：2022年4月2日 23時
