【１３１】 ページ37
＊＊＊
私の身体を乗っ取っていた敵(ヴィラン)は皆やお父さんのお陰で翌日には逮捕されたのだと、テレビで報道されていた。皆はまるで自分の事の様に喜んでくれたけれど、私は身を持って社会に害を成す敵(ヴィラン)というものの恐ろしさを知った。
個性という特殊な力を悪用する事。情報として認識していたそれを身を持って体験した時、途端にこの世界が恐ろしく見えたのだ。私が居た世界にも犯罪は毎日の様に起こっていて、何処かで誰かが被害に遭っていたけれど、それとは全く比にならないのだと、この世界にヒーローが生まれた意味を知る。
だからこそ、この世界の人々はヒーローに依存していたのだろう。私が知らなかったとある大規模な敵(ヴィラン)掃討作戦の末、街に甚大な被害が出た事やその作戦に参加していた現No.1ヒーローのスキャンダル。依存していたからこそ、人々は掌を返す様にヒーローを信じる事が出来無くなってしまったのだと。
あの日から私が知らないこの世界の事をネットで調べ回っていた。動画サイトにはオールマイトの全盛期から最後の瞬間まで纏められた動画も投稿されていて、平和の象徴がどういうものであったのかも理解する。
そして、この世界は平和の象徴を失っても尚、優し過ぎたのかも知れないと、やるせなさを覚えたのだ。敵(ヴィラン)が蔓延り、人心は離れ、それでも悪を許さず誰かの助けになろうとするヒーローの在り方は、眩しいと思う反面、辛いものがあったのだ。
だから、皆を真っ直ぐ見詰める事が出来無くなってしまった。今日も私は放課後、一人で屋上へと訪れていた。此処ならば、仮に皆が後を付けて来ていたとしても気付く事が出来ると、そう思っての事だ。
皆が優しくしてくれる事に慣れてはいけない。助けてもらったから次も助けてくれると、それを当たり前にしてはいけない。勝手に当たり前にして、勝手に期待して、期待通りにならなかった時、この世界の人々の様に掌を返す様な人間にだけはなりたくはないと、皆から距離を置いた。
それが返って心配を掛けてしまっている事も分かってはいる。けれど、これ以上甘やかされると本当になりたい自分を見失いそうで、こんな私の背を押してくれた焦凍君の為にもそれだけはしたくなかったのだ。
そんな事を考えていると、不意に屋上の扉が開かれた。その音に振り返った時、そこに居る人物に自然と眉が下がり出したのが自分でも分かった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 110人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
パル(プロフ) - 529zinbeizameさん» ｺﾒﾝﾄ有難う御座います！楽しんで頂けて本当に嬉しく思います！ご期待に添えられる様に頑張りたいと思います！今後ともこの作品をよろしくお願い致します！ (2022年1月23日 21時) (
レス) id: a050d7518b (このIDを非表示/違反報告)
529zinbeizame(プロフ) - めっちゃ面白くていっきみしてしまいました！！最高に面白いので更新よろしくお願いします！応援しています٩( 'ω' )و (2022年1月23日 13時) (レス) id: c26de05c7b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：パル | 作成日時：2022年1月13日 20時
