【８８】緑谷side ページ42
事の始まりは轟君が一番近くで瀕死寸前の彼女を見た為、危なっかしくて見ていられなかったのだと、そう思い込んでいた。加えて、高熱を頻繁に出す彼女の冷えピタ係を請け負っていたのだとばかり思っていたけれど、少し前から彼女に対してかなり柔らかく接している轟君の姿に違和感を覚える様になっていたのだ。
違和感と言っても悪い意味合いのものでは無く、僕達には見せない顔や態度、具体例を挙げるなら彼女と二人で頬を引っ張り合ってじゃれていたり、良い意味合いで無遠慮なところとか、一番記憶に新しいもので言うと、彼女が酷く困惑して優しい涙を流したあの緊急速報の件だ。
あの時の轟君は酷く悲しい顔をしていて、僕達はてっきり、その速報に映った青い炎が原因とばかり思っていたけれど、彼女に向けられた言葉に違うのだと、思い知った。
『見るな……お前は見なくていい。お前は……こんな世界、見なくていいんだ』
ソファーに座っていた彼女の視界を遮る様に後ろから目を塞いでいた轟君。その時に吐き出された言葉は、他でも無い彼女を思っての言葉だった。あの時はそれどころじゃなかったけれど、よくよく考えてみると幾ら疎そうな轟君でも、異性に対してあの距離は可笑しいと分かる筈。思い返せば思い返す程、あれは所謂バックハグの様なもので、それは露骨に、如実に表れていたのだ。
そういうのが蓄積された末に導き出されたものが、今も尚熱気に動じる事無く彼女へと向かって行く轟君の姿に、あくまで可能性だったそれが確信へと変化していく。
「轟君！」
正直、興味本位で聞いて良いものかは分からないけれど、思わず呼び止めてしまう。僕の声に足を止めた轟君は「何だ、緑谷」と、振り返った。
「その、轟君って……清水さんのこ、と……」
そう最後まで言い切る前に轟君の目尻が柔く下がり、その後に彼が取った仕草に僕達はそのあまりの破壊力に目が潰れてしまうのでは無いかと、錯覚してしまう。
「Aには言うなよ」
口元に人差し指を軽く立て、僅かに笑った轟君は何事も無かったかの様に彼女の元へと向かって行くけれど、そんな純濃度の糖分を過剰摂取させられた僕達は男女問わずにその場にへたりこんでしまい、改めてイケメンの恐ろしさを再認識したのである。
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パル(プロフ) - もぐさん» ｺﾒﾝﾄ有難う御座います!!ひぇ……長編作ばかりなので大変だったと思いますが書き手冥利に尽きると言いますか、本当に嬉しく思います！有難う御座います！！ドロドロ鬱展開は今まで書いた事が無かったのですが書いてみたくなりました！今後ともよろしくお願いします！ (2021年12月18日 18時) (
レス) id: a050d7518b (このIDを非表示/違反報告)
もぐ(プロフ) - どの作品も性癖に刺さり一気に全作読ませて頂きました！やはり文章の綴り方がお上手なのか全くタイプの違った今作も最高です！いつかドロドロ鬱展開のバッドエンド作品も読んでみたいと思いました。これからも応援しております！ (2021年12月18日 16時) (レス) id: 1c01f7244c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：パル | 作成日時：2021年12月11日 19時
