【７５】 ページ29
恥ずかしくて俯いてしまうと焦凍君は黙り込み、沈黙が流れる。雨音だけが傘に弾かれてﾎﾞﾂﾎﾞﾂと音を立てる中、何も言わない焦凍君に出過ぎた事を言ってしまったのではないかと不安に思っていると、焦凍君は静かに「なぁ、A」と、沈黙を破った。
恐る恐る顔を上げると、焦凍君は何処か思い詰めた様な面持ちで僅かに顔を顰めていた。それは、先程焦凍君が口にしていたやるせなさそうな表情で、焦凍君は足を止めると、徐に私の頬へと手を伸ばす。そして、軽く触れたまま俯いてしまう。
「焦凍君……？」
頬を摘まれるのかと僅かに身構えてしまったけれど、どうやらこの手はただ触れるだけで、いつもの様に頬を摘んでくる事は無く、焦凍君も何だか疲れている様な、そんな気がしたのだ。
呼び掛けても何も言わない焦凍君に恐る恐る手を伸ばし、同じ様に頬に触れると、焦凍君は「お前は……そのままで居てくれ」と、まるで懇願するかの様に言葉を吐き出した。
どうして焦凍君がこんな風になっているのか、私には分からなかったけれど、きっと先程の話題の中に焦凍君の中で消化出来ていない事があったのかも知れない。それが何かまでは分からないけれど、焦凍君が私にそれを望んでいるのなら、私は何も聞くべきでは無いのだろう。だったら───…
「おひ、なひすんは」
焦凍君の頬をいつもの様に摘み、顔を上げた焦凍君に少し痛いかも知れないと思いつつも横に引き伸ばす。みょーんと僅かに伸びる焦凍君の頬に小さく笑いながら軽く親指の腹で撫でると、焦凍君は何処か肩の力を抜く様にﾌｯ……と笑みを零した。
こんな些細な意地悪で焦凍君が笑ってくれるのなら、幾らでも力になろう。何も聞かず、何も知らないまま、無邪気に焦凍君の頬を摘むだけでそんな優しい顔をしてくれるのなら、私は幾らだってこのままで在り続けようと思う。
元の形に戻す様に軽く焦凍君の頬を擦りながら離すと、焦凍君は「ありがとな、A」と、焦凍君の中にあった様々な感情を乗せる様に吐き出した。それがどんなものなのかはやっぱり分からなかったけれど、その声色には今まで引っ掛かっていた何かが取れた様な安心感が込められていたのだった。
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パル(プロフ) - もぐさん» ｺﾒﾝﾄ有難う御座います!!ひぇ……長編作ばかりなので大変だったと思いますが書き手冥利に尽きると言いますか、本当に嬉しく思います！有難う御座います！！ドロドロ鬱展開は今まで書いた事が無かったのですが書いてみたくなりました！今後ともよろしくお願いします！ (2021年12月18日 18時) (
レス) id: a050d7518b (このIDを非表示/違反報告)
もぐ(プロフ) - どの作品も性癖に刺さり一気に全作読ませて頂きました！やはり文章の綴り方がお上手なのか全くタイプの違った今作も最高です！いつかドロドロ鬱展開のバッドエンド作品も読んでみたいと思いました。これからも応援しております！ (2021年12月18日 16時) (レス) id: 1c01f7244c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：パル | 作成日時：2021年12月11日 19時
