【７３】 ページ27
身振り手振りでその時の事を話す私に焦凍君は何処か楽しそうに「何だ、それ」と、笑っていて、釣られて笑いながら昇降口に着くと、既に雨は降り出していた。雨の日特有の匂いが仄かに鼻を掠め、確かこの雨の匂いと呼ばれるものは埃やカビの匂いだと、元の世界のテレビで話していたのを見た気がする。
「もう降って来たか」
「焦凍君、傘ある？」
「ねぇ」
「えっと、一緒に入る……？」
そうインターンに行く前に百ちゃんが持たせてくれた折り畳み傘を鞄から取り出すと、焦凍君は「濡れるだろ」と、軽く外に手を伸ばす。
「少しくらい平気だよ。それに一人で使うのも気が引けちゃうから」
百ちゃんのお陰なのにここぞとばかりに役に立てると、傘を開いて焦凍君に「おいでおいで」と、手招きする。すると、焦凍君は少しﾑｯと眉を顰めながら「犬じゃねぇぞ」と、少し屈んで入って来てくれて、それに小さく笑いながら歩き出すと、焦凍君はナチュラルに傘の柄を持ってくれた。多分、身長差的に私が持つには低過ぎたのだろう。
「A、この世界に少しは慣れたか」
唐突に名を呼ばれ、思わずﾄﾞｷｯと跳ねてしまう心臓に焦凍君を恨めしく思いながらも「慣れたと言えば、慣れてしまったのかも知れない」と、目を覚ましてからのこの一ヶ月を振り返る。
今は異形型と呼ばれる個性の人達を見て驚く事はあれど、恐怖を感じる事は無くて、皆の個性を見る度にはしゃいでしまう自分も確かに居て、知らない事はまだまだあるのかも知れないけれど、それでも私はこの世界に馴染み始めているのだろう。もう、以前の様に帰りたいと思う事が少なくなってしまったのも確かだった。
「……お前を見てると、自分達がある意味非日常に慣れ過ぎてたんだなって、時々思う」
「でも、それがこの世界では普通の事なんじゃ……」
「怪我したり、敵(ヴィラン)と戦ったり……誰かが常に危険に晒されてる事が当たり前だって事の方が可笑しいだろ。それを無くす為のヒーローだって事は分かってるつもりだ。だが、世界の在り方ってのに……やるせなさを感じるのも確かだ」
焦凍君のそれは当たり前の感覚だと思った。常に何処かで誰かが危険に晒されてる事が日常化してしまっていて、それ故にヒーローという職業が脚光を浴びているのだから、そんな世界の在り方にそう思ってしまうのは無理は無いのかも知れない。
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パル(プロフ) - もぐさん» ｺﾒﾝﾄ有難う御座います!!ひぇ……長編作ばかりなので大変だったと思いますが書き手冥利に尽きると言いますか、本当に嬉しく思います！有難う御座います！！ドロドロ鬱展開は今まで書いた事が無かったのですが書いてみたくなりました！今後ともよろしくお願いします！ (2021年12月18日 18時) (
レス) id: a050d7518b (このIDを非表示/違反報告)
もぐ(プロフ) - どの作品も性癖に刺さり一気に全作読ませて頂きました！やはり文章の綴り方がお上手なのか全くタイプの違った今作も最高です！いつかドロドロ鬱展開のバッドエンド作品も読んでみたいと思いました。これからも応援しております！ (2021年12月18日 16時) (レス) id: 1c01f7244c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：パル | 作成日時：2021年12月11日 19時
