【７０】 ページ24
お父さんの背中を見送り、ゆっくりと歩行器を動かしながら寮へと戻ろうとすると、焦凍君は未だにお父さんの背中をじっと見詰めていて、首を傾げながら声を掛けると、焦凍君は「ん？ああ、わりぃ」と、隣に来てくれた。
「相澤先生、ちゃんと父親やってんだな」
「え……あ、そうだよね。皆の前だと、基本的にお父さんと言うよりも先生として接する事が多いから、そう思うよね」
「戸籍は相澤Aになってんだろ？何で清水のままなんだ？」
寮へと向かう道すがら、退院した日の事を話した。まだ、この世界が自分が居た世界とは違うと知らなかった時、家の住所にだだっ広い駐車場しか無かった事や、お父さんが私の名前をこの世界に唯一持って来れた私の大切なものだと、尊重してくれた事を。
「名前だけが、私が私である証明だから。お父さんはそれを大事にすると良いって、言ってくれて……」
本当に嬉しかった。優しい人だと思った。お父さんが私を引き取ってくれて良かったと、心から感謝が尽きなくて、今こうして焦凍君やクラスの皆と過ごせるのはお父さんのお陰だとしみじみ思う。
「成程な。なら、俺もこれからは名前で呼んで良いか？」
「え……？」
「それがお前がお前だっていう証明になんのなら、個性が宿っても何も変わらねぇって思える様に、夢じゃねぇって分からせてやるよ」
そう告げる焦凍君は喧嘩腰とは違うけれど、何処か挑発的で、何だか顔の良さと相俟って心臓に優しくないと、思わず目を逸らしてしまう。
「嫌か……？」
「嫌じゃない……です」
「じゃあ何で目ぇ逸らしてんだ？」
「心臓に優しくないからです……」
「熱出てんのか？」
これで高熱が出たら確実に焦凍君のせいだと思う。と、考えながらその後も焦凍君の顔を一度も見ずに帰寮すると、焦凍君は僅かにﾑｽｯとしている様な気がして、一応ご機嫌を取る様に「焦凍君、もしかして末っ子だったりする……？」と、少しだけ焦凍君の顔を見てみる。
「ああ、よく分かったな」
目が合った途端、何処か安心した様に柔く焦凍君の目尻が下がるので、ご機嫌取りが成功したのだと一安心するも、やっぱり心臓に優しくないと、直ぐに逸らしてしまう。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 113人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ヒロアカ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
パル(プロフ) - もぐさん» ｺﾒﾝﾄ有難う御座います!!ひぇ……長編作ばかりなので大変だったと思いますが書き手冥利に尽きると言いますか、本当に嬉しく思います！有難う御座います！！ドロドロ鬱展開は今まで書いた事が無かったのですが書いてみたくなりました！今後ともよろしくお願いします！ (2021年12月18日 18時) (
レス) id: a050d7518b (このIDを非表示/違反報告)
もぐ(プロフ) - どの作品も性癖に刺さり一気に全作読ませて頂きました！やはり文章の綴り方がお上手なのか全くタイプの違った今作も最高です！いつかドロドロ鬱展開のバッドエンド作品も読んでみたいと思いました。これからも応援しております！ (2021年12月18日 16時) (レス) id: 1c01f7244c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：パル | 作成日時：2021年12月11日 19時
