【８０】 ページ34
私は雄英の敷地の外の世界をあまり知らない。この世界の歴史も、社会情勢も何も知らないまま日々安穏と過ごしている。そんな私に現実を思い知らせるかの様に、夢は混沌に包まれた社会を生々しく見せる。
敵(ヴィラン)が傍若無人に暴れ回り、人々が嘆き悲しむ中に現れるヒーロー。八つ当たりの様な、蔑みと幻滅と嫌悪の眼差しで心無い言葉をヒーローへと浴びせ、物を投げ付け続ける人々。それを必死に我慢して何も言わずに己の使命を全うしようとする名も知らないヒーローの背中が痛々しくて、悲しい。
夢の中だというのに涙は溢れるばかりで、指先一つ動かせず、瞬きすらさせてもらえず、ただそんな光景を見せられ続けていた。
ヒーローの卵である皆を一等星と呼ぶのなら、ヒーローは人々を未来へと紡ぐポラリスの様な存在の筈で、決して見失う事無い、そこに在り続ける目印なのだと、私は思う。
だからこそ、現実世界でその目印を道標を自ら見えなくしてしまっている人々が悲しいのだ。誰も傷付かない世界なんてものは、何処にも存在しないかも知れない。優しさだけで包まれた世界なんてもの、夢幻の理想でしか無くて、現実はこんなにも残酷なのだと、痛烈に目に焼付ける。
私は一体、何が出来るのだろうか。真綿に包まれた箱庭で温もりと優しさを享受し続ける私が、こんな臆病で弱虫な私が、与えられるもの全てに報いる為には一体何が出来るというのか。
そのままで居続ける事だけなんて、嫌だ。私も力になりたい。些細で微力でちっぽけな存在だけれど、与えられてばかりでは無くて、私も与えられる様な存在になりたいのだ。
だから、この光景を忘れない様に目に焼き付けよう。こんな風に傷付け合う事でしか何かを満たす事が出来無い悲しい心なんて、無くしてしまえば良い。人は平等で、踏み躙られていい命なんてものは存在しないのだから。
ヒーローとは違う何かで、違う方法で、誰かに寄り添って行けたら良い。願望でただの夢物語だという事は百も承知しているけれど、分不相応な願いだとしても、私はそれを叶えようと思う。
「……プルスウルトラ」
自然と動かせなかった身体に自由が戻った。それと同時に目の前の光景が、いつかそうだった様に白い炎に巻かれて消えて行く。それが、きっと私に宿った個性なのだろう。
もう良い。変わろう、新しく生まれ変わるんだ。この世界の一人として、もう二度と振り返ったりはしないと、此処に誓おう。私はもう、この世界の人間なのだから───…
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パル(プロフ) - もぐさん» ｺﾒﾝﾄ有難う御座います!!ひぇ……長編作ばかりなので大変だったと思いますが書き手冥利に尽きると言いますか、本当に嬉しく思います！有難う御座います！！ドロドロ鬱展開は今まで書いた事が無かったのですが書いてみたくなりました！今後ともよろしくお願いします！ (2021年12月18日 18時) (
レス) id: a050d7518b (このIDを非表示/違反報告)
もぐ(プロフ) - どの作品も性癖に刺さり一気に全作読ませて頂きました！やはり文章の綴り方がお上手なのか全くタイプの違った今作も最高です！いつかドロドロ鬱展開のバッドエンド作品も読んでみたいと思いました。これからも応援しております！ (2021年12月18日 16時) (レス) id: 1c01f7244c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：パル | 作成日時：2021年12月11日 19時
