【１５】 ページ16
そんな私にﾁﾗｯと一瞥寄越したお父さんは何処か安堵する様に僅かに笑みを零すと「いや、何でも無い」と、見え始めたハイツアライアンスと呼ばれる立派な建物の前で車を停める。
「あ……言い忘れてたが、此処にはお前が激突した生徒も居る。お前は覚えていないだろうが、一応謝罪はしておいた方が良いだろ」
「あ、はい。激突……って、あれですよね。頭の上に降って来ちゃったんですよね……？」
「ああ。咄嗟の事で受け止めきれず、椅子ごと盛大にひっくり返ってたよ」
怖い。正直、文句を言われてしまったらどうしよう。いや、謝るしか私に出来る事なんて無いのかも知れないけれど、怖い人じゃ無ければ良いと思ってしまう。
思わず俯いてしまった私の頭に手を乗せたお父さんは「向こうは気にしてないと思うぞ」と、安心させる様に言うけれど、こっちは気にしてしまうのだ。
お父さんは車から降りると、わざわざ助手席を開けに回って来てくれて「あの、歩けますよ……？」と、車から降り様と地面に足を付け、踏み出そうとした時、ｶﾞｸﾝｯと急に身体に力が入らなくなり、意識が遠退き始める。
「A……？おい、大丈夫か」
危うく転びそうになった私を受け止めてくれたお父さんにそのまま身体を預け、抗い切れない睡魔に瞼を下ろすと、お父さんの「そうだな、今日は疲れただろ」と言う優しい声が掛かった。
「おとう……さん」
「また会いに来る。それまで休め」
「ん……」
そこで意識が途切れた私は、よく分からない夢を見ていた。夢と呼ぶにはあまりにもリアルで、私が事故に遭った後の光景を見せ付ける。知らない人達の悲鳴と救急車とパトカー。それに、私の眠る病室で泣き続けている母の姿。
嗚呼……お母さん、私生きてるよ。だから、泣かないで。今直ぐには戻れないのかも知れない。もう、お母さんのもとには帰れないのかも知れない。だけど、私はちゃんと生きてるよ。だから……悲しまないで。
私は知らなかった。お父さんの腕の中で眠りながら涙を流していた事を。そして、それをある一人の男の子が静かに見詰めていた事を、私は知らない。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 138人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ヒロアカ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
パル(プロフ) - 柴ぬいさん» ｺﾒﾝﾄ有難う御座います!!知らないからこその新鮮さや衝撃などなど、普通だったらこういう反応になるかな？と考えながら書いていたのでこうしてその点に関してのｺﾒﾝﾄ頂けて嬉しく思います！また表現についても感想下さり、こちらこそ本当に有難う御座いました！ (2023年3月14日 18時) (
レス) id: 6636808e83 (このIDを非表示/違反報告)
柴ぬい - めっちゃ最高でした！（全部読みました！）ヒロアカを知らない体での転生ものは初め読み進めている時とても驚きました！また、胸にｽﾝｯと落ちてくる表現の仕方が半端なかったです！素敵で平和な世界線でのお話を読めて幸せです！ありがとうございました！！ (2023年3月14日 16時) (レス) id: c5d3bd3937 (このIDを非表示/違反報告)
パル(プロフ) - ひながきさん» ｺﾒﾝﾄ有難う御座います!!楽しんで頂けるか分かりませんが、楽しんで頂けると幸いです！貧弱綺麗事万歳夢主をよろしくお願いしますww (2022年10月2日 23時) (レス) id: 6636808e83 (このIDを非表示/違反報告)
ひながき(プロフ) - まだ呼んでいないのにコメントをするという奇行をさせていただきます。要注意の【貧弱綺麗事万歳夢主】という語彙が好きです。これから読まさせていただきます、笑 (2022年10月2日 15時) (レス) id: 4bea1154e8 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：パル | 作成日時：2021年11月11日 23時
