【９８】 ページ49
思わせ振りな様でそうではなくて、期待を持たせない癖に突き放す事もしない。求めに応じてくれる訳でも無い。だからと言って求める事をやめろとも言わない。僕の好きにすれば良いと言う割には、いつだって主導権は彼女が握っている。
振り回されているのは明白なのに、それでも良いと彼女の傍に居る事を望んでしまう。結局それが、僕達の距離をある一定に落ち着かせ、現状維持になってしまっている理由でもある。
「何でそういう事言うかなぁ……」
「……その一点だけは、否定せずに認めてやんよ」
穏やかに、そして何処か寂しげに呟いた彼女は煮物を摘むと「これに免じてな」と笑っていた。
仮に僕達が雄英で出逢っていたなら、僕はきっと……彼女をこんなにも好きになる事は無かっただろう。同じ立場で、同じ場所で、互いにヒーローを目指す関係だったなら……隣に並び立つ事は出来ても、傍に居たいと思えたかどうかは、正直分からなかった。
彼女が拾ってくれたお陰で今の僕がある。彼女は僕にとって命の恩人で、その経緯があったからこそ、僕は彼女の様々な面を知り、強く惹かれたんだ。
おにぎり片手に満足気に煮物を摘む彼女に「……僕は君との出逢い方を後悔してないよ」とやんわりと彼女の後悔を否定する。
「あの日、君が助けてくれたから僕は君を好きになれたんだ。この気持ちは多分、出逢い方が違ってたら生まれなかったと思うから……」
僕達の今を無かった事にしないで。と言葉を続けた僕に彼女は僅かに驚く様に目を見開くと、直ぐに視線を逸らし「なぁ、出久」と箸を置いた。
「ボクはお前に応えてはやれないけど、お前のそれは心地良く感じ無くも無いんだ。だから、ボクはお前を拒まないし、お前の望みを全て叶えてやろうとも思わない」
それはあまりにも身勝手過ぎる程に彼女らしい言葉だった。僕の好意を心地好く思う理由は分からない。単に彼女の中で懐かれている様に捉えているだけなのかも知れない。ただ、独り善がりなこの気持ちを知りながら、彼女は応えないと言う。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 62人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
パル(プロフ) - 楊離月さん» ｺﾒﾝﾄ有難う御座います!!楽しんで頂けて良かったです。自分でもミニマムズを結構気に入っていたのでそう言って頂けて嬉しく思います！亀更新ではありますが、今後ともよろしくお願い致します。 (2021年5月16日 20時) (
レス) id: a050d7518b (このIDを非表示/違反報告)
楊離月(プロフ) - 夢主さんとデクのやり取りを見てめっちゃ楽しかった！久々こんな微笑ましい緑谷くんの話読んで大満足です！これからの二人さんが楽しみですね…！みにデクたちマジかわいいすぎこっちにも来てほしい(おい (2021年5月15日 23時) (レス) id: 3422f57d59 (このIDを非表示/違反報告)
パル(プロフ) - Pandaさん» ｺﾒﾝﾄ有難う御座います！前作に引き続き今作まで読んで下さって本当に有難う御座います！亀更新になってしまっていますが、どうか今後ともよろしくお願いします！ (2021年3月24日 11時) (レス) id: a050d7518b (このIDを非表示/違反報告)
Panda - わぁああ！！！もう相変わらずの素敵な物語に驚愕しております！！！リアルが忙しくなかなか読みに来れなかったのですが、読んで疲れが一気に飛びました！！この夢主ちゃん(ちゃんと言っていいのか…？)とても好きです！二週目してきます！ (2021年3月24日 7時) (レス) id: 6df71f9a53 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：パル | 作成日時：2021年2月19日 16時
