【ヒロアカ】Question (ページ36)

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【３５】ページ36

「そんなヒーロー……ボクは嫌だ」
「え……？」

薬を絞り出したガーゼを傷口に軽く引っ付け、包帯を巻く彼女の呟きの意味が理解出来ず、真下にある彼女の旋毛を見詰めれば、彼女は「心配はお前を思っての事だろ」と静かに告げた。

「それなのに、お前を気に掛けてる連中の思いをお前自身が拒んで……それで、見ず知らずの誰かを守って死ねたら本望だって？それで救った気になる訳？」
「そんな事……」
「お前が言ってる事はそういう事と同じだ」

何処か苛立った様な声色で、それでもその感情を何とか押し殺そうとしているのか、彼女は包帯を巻き付けながらも舌打ちを零す。

「ヒーローである前に、一人の人間だって自覚しろ。死にたくないのなら、尚更だ」
「瀬崎さん……」
「死ぬなら一人の人間として死ね！ヒーローを理由に死ぬ事を受け入れるな……！」

その言葉が酷く重く僕に伸し掛る。彼女の言葉は僕が見えていなかった僕自身の在り方を的確に指摘していて、何も言い返せなかった。

ヒーローである事の責務はある種の重圧だ。そこに自身の存在価値を見出していた事は否定しない。だけど、彼女は僕をデクと呼んでもヒーローとして接した事は一度たりとも無い。だからこそ、彼女の目にはデクでは無く、一人の緑谷出久としての僕が映し出されていたのかも知れない。

それが何故か、堪らなく嬉しいと思える。きっと、彼女の様に僕を気に掛けて心配してくれた人達は居たのだろう。だけど、僕は彼女の言う通り、己の弱さだとその心配を受け取る事を拒んでいた。

嗚呼……本当に、僕は大馬鹿者だ。周りの心配を受け入れもせず拒んで、それで何かを守ろうとするなんて烏滸がましいにも程がある。

僕は少し背伸びをしていたのかも知れない。僕は一人前なんかじゃない。まだまだ半人前で未熟なのに誰かを守りたい気持ちが先立ってしまう。それが未熟であると彼女に指摘されるまで気が付かなかったのだから、彼女が怒るのも無理は無いのかも知れない。