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諸々の手続きを終えて役所から出ると自然と次の行先に溜め息が零れてしまう。憂鬱とは少し違う…不安を感じている訳でも無い。ならば、あの男に対して何を感じて居るのかと言えば、それはただの緊張なのかも知れない。
恨み言か、それとも警察の思惑通りに事件について話そうというのか。いや、前者は有り得るだろうが、後者は無いと考えた方が良いだろう。
「………」
山田君は、あの男の死を以て全てに幕を下ろす事が出来ると言っていた。あの人と同じ被害者である山田君の母親の話は一度も聞いた事は無いけれど、私とは違った苦悩を抱えていたのは事実だ。
だが、恐らく私の場合はそうでは無いのかも知れない。あの男が私に齎したのは地獄への片道切符だったのかも知れないが、今はそうでは無かったのだと思える。
彼や皆、あの男の血で繋がった山田君の存在が地獄を変えてくれた。切っ掛けは所詮切っ掛けに過ぎない。あの頃と今では何もかもが違う。
あの男が死んだからと言って、今更私の中で何かが変わる訳では無いのだ。変化を起こすのは私自身であって他者では無い。
私の中で全てに幕を下ろせる時、それはあの人と真正面から向き合い、思いの丈を伝える時だ。だから、今回あの男と面会したとしても終わりを迎える事は出来無いのだ。
車に乗り込み、あの男が収容されている拘置所へと向かう。
これで最後になる。いや、あの男と会うのはこれっきりにしたい。これ以上、生い立ちに振り回されたくは無い。私が生きているのは過去では無く、今なのだから。
拘置所に着くと取調べを担当する刑事に出来るだけ情報を引き出してほしいと頼まれたが、恐らく私が何を言おうともあの男は自分の言葉しか吐く事は無いのだろうと耳半分で聞き流し、面会室へ入る。
一枚の硝子で隔たれた、無機質な部屋。暖かみも無い、薄暗い部屋であの男が来るのを椅子に座って待っていると、あの男は見張りの警官と共にやって来た。
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作者名：パル | 作成日時：2019年9月7日 15時
