１１７ ページ21
彼のその眼差しに一瞬で顔に熱が集中してしまい、何て顔をしているの…と、彼を恨めしく睨むと「可愛いだけだよ？」とｸｽｯと笑われてしまう。
「き、君…仕事中だよ…？分かってる…？」
「勿論、分かってるよ。でも、仕事中の君が格好良くて……何だろう、凄く新鮮で…こう、好きだなぁって思っちゃったんだ」
目を細めて言う彼は「格好良くて、可愛くて…賢くて、本当に…僕には勿体無いくらい自慢の恋人だなぁって」と言葉を続けて来るので、羞恥のあまり目を逸らすと「ごめんね」と口先だけの言葉を寄越し、軽く髪を掬いそこにキスを落とす。
仕事に集中しないといけないのに、遊ぶ様に私の髪を指に絡めてはくるくると巻き付けて、すぅーっと梳く彼に全く頭が働かなくなってしまう。
「さっきの話だけど、僕としても良いと思う。イブの夜を決行日にする事。社長も納得すると思うし、準備に時間を掛ければ相手に気取られ兼ねないから」
「…仕事の話するなら髪弄るのやめてほしい…頭、上手く働かなくなる…」
「ほら、切り替えて？」
「それ、君が言うの…？」
「うん」
きっと、怒るなり追い出すなりとすれば良いのだろう。だけど、彼に触れられている今が心地好くて、それを拒む事が出来無い私も…この二人きりの空間で、いけない事だと分かっていても、与えられる愛しさに微睡んでしまいたくなってしまうのだ。
「社長が心配してたよ、君の事」
「どうして…？」
「気を張り過ぎてるんじゃないかって。立場を重んじてるのは分かってる。でも、もっと肩の力を抜いても良いんじゃないかって…」
彼の言葉を聞いて、社長が私の護衛にわざわざ彼を当てた理由が分かった様な気がする。年の功故にだろうか、社長の目には私が青く見えているのかも知れない。実際に青いのかも知れないけれど…
「それで君を護衛に？」
「うん」
「…足を向けて眠れないね」
「まぁ、それだけじゃなさそうだったけどね」
苦笑する彼に何と無くからかわれたのだろうと察した私は「それじゃあ、社長のご好意に甘えるとするよ」と彼に軽く凭れ掛かりながら仕事を再開する。
「あのね…出久君。あまり大きな声では言えないけど、本当は嬉しいの。君の力になれる事、君とこうして一緒に仕事に取り組める事が…堪らなく嬉しい」
嬉しく思わない訳が無い。何故なら、彼の夢と私の夢がこうして一つの形になってるのだから。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 16人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：パル | 作成日時：2019年9月7日 15時
