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内に抱える薄暗い淀みを鎮める様にゆっくりと鼻から酸素を取り込み、溜め息と共に吐き出す。
「…それで、あの人はどうして居るんですか」
今更なのは私も同じなのかも知れない。あの日々の中で、私は父や他の人に助けを求めた事も無ければ、あの人を哀れんだ事はあれど、憎しみを抱き、怒りに身を任せた事も無かったのだから。
堪え切れずに涙を流す父は「昨日…配信されていた動画を見て、完全に記憶が戻った」と言う。
「ただ、お前を見て泣いていた。ゆうやが心配で仕方が無かった筈なのに、お前が必死に助け様する姿を見て…お前に会いたいと、会って詫びたいと泣いていた」
本当は今日、母さんも来たがっていたんだ。と言葉を続けた父の言葉が信じられなかった。記憶が戻ったという事は、私があの男の子供であると知ったという事だ。
記憶を改ざんし、擬似家族を演じて来た私に……会って詫びたい…？あの人がそんな事を思う筈が無いじゃないか。
忌まわしい出来事が生み出してしまった、忌まわしい子。生きているだけであの人を苦しめる癌でしかない私に……会いたい…？
「…っ、嫌だ……会ったら、今度こそ殺されてしまう…！」
「母さんはもうお前を殺したりしない」
「そんなの、信じられる訳が無いでしょう…？もう…あんな思いは沢山だ…っ。苦しいのも痛いのも、拒絶されるのも、存在を否定されるのも…あの人から与えられるもの全て、私には苦痛でしか無かったと言うのに…っ、今更どうあの人と向き合えって言うの…？」
思い出したから詫びたい？思い出したからこそ、今度はアナタ達の幸せを壊しかねない私の存在を消そうとするでしょう…？
「私が…居なければ、アナタ達の家族は初めからあの人とアナタとあの子の三人だけだったって思う事が出来る。私の存在なんか……初めからアナタ達の中には無かったのに、殺す以外の選択なんて存在しないじゃない…っ」
「っ…A、頼む…一度で構わない。母さんに会ってやってくれ…っ」
「それだけは…出来無い。そんな恐ろしい事…出来る訳が無い…」
「お願いだ…っ」
「くどい…っ！！」
父に向かって枕を投げて追い出そうした時、彼は「A…それは駄目だよ」と私から枕を取り上げ、止める様に抱き締める。それが私を殺そうとするあの人を止めていた父の姿と重なり、そんな自分が堪らなく嫌になった。
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作者名：パル | 作成日時：2019年9月7日 15時
