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目の前に居る男の子と実際に会うのはこれが初めてだった。顔を見ても初めは誰だか分からなかったが、目が合った時、男の子の瞳があまりにもあの人にそっくり過ぎて、嫌でもこの男の子が私の弟に当たる存在なのだと思い知らされる。
渡米した後、父から赤子を抱いたあの人の写真が送られてきたが、その時はただ、子供が無事に生まれたという事だけで性別や名前などは聞かなかったのだ。
だが、こんなにもあの人の面影を残し、部分的に父の遺伝子を垣間見える男の子を見て、それ以外に考えられなかった。
「…山田君、今から私の事は苗字で呼ばないでほしい」
「…分かった」
何も言わずに受け入れた山田君が男の子を拘束する縄を解いている間に男の子から目を逸らし、深く息を吐き出して自身を落ち着かせる。
何処までも嫌なやり方をする人だ。と心の中であの男を恨みながら「こわい…こわいよ…っ…ママ…っ」と泣き声を上げる男の子の声に自身の腹の中から湧き上がる負の感情を必死で抑え込む。
あの人と父に愛情を注がれて育った私の弟。比べてはいけないと分かっていても、あの人に助けを求め続ける男の子に正直、苛立ちしか湧いてこない。
こんな事は思いたくないのに…あの人達の愛情を一身に受けて育ったあの子を憎いと思ってしまう。私には与えられなかった、求めて止まなかった愛情を当たり前の様に享受して生きているあの子の存在が憎らしく思えてしまう。
「ひっく…っうぅ…ママ…っパパ…っ」
「もう大丈夫だからな？ほら、男の子だろ？泣き止めって」
「ｸﾞｽﾝｯ…う、ん…っ」
「よし！お前、名前は？」
「ゆうや、むおんゆうや…」
「無音…？」
あの子から紡がれた言葉に動揺する山田君も察してしまったのだろう。私の肩に手を置くと「大丈夫か…？」と声を掛けてくる。
「どういう意味で聞いてるの」
口から出て来た言葉は自分でも驚く程、冷たく無機質なものだった。八つ当たりなのは百も承知しているけど、止めどなく湧き上がるこの気持ちをどう処理すれば良いのか分からないのだ。
「行こう…時間が惜しい」
「…そうだな」
今はただ、此処から脱出する事だけを考えよう。この件が片付いた時、私の中からあの子の存在を消せば良い。そうすれば……元通りに戻れる。
こんな醜い感情を持つ事も無くなるのだから。
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作者名：パル | 作成日時：2019年9月7日 15時
