蝶屋敷 ページ10
それを床に置いて、不安げに瞳を揺らした。
「…しのぶ様、これは…」
動揺するアオイに、しのぶは指示を飛ばした。
「アオイ!布を濡らして血を拭き取って下さい!縫合します」
「はい‼」
アオイは小さく深呼吸をして、返事をした。
助からないかもしれない。助かったとしても、後遺症が残ってしまうだろう。それでも、目の前の命を救うために手を施すのが、アオイの使命だった。
「冨岡さん、彼女の血液型は⁉輸血が必要です!」
「俺と同じ。胡蝶、俺の血を使ってくれ」
いつになく硬い声が、Aを見つめる瞳が後悔と不安、そして静かな怒りを宿して燃えていた。
「分かりました。アオイ、準備を」
「はい‼」
血をきれいに拭き取ったアオイにしのぶは指示を出す。それに大きく頷いて、アオイは彼をAの隣に座らせた。
輸血はアオイに任せ、しのぶは傷を縫合するために消毒した針に糸を通した。着物を繕うように、肌に針を通していった。
懐かしい温もりに触れた気がして、うっすらと目を覚ました。夢現の境界線に彷徨っている彼女はどれが現実で夢なのか判断できていなかった。
頭に触れたその手をぎゅっと握る。
そのぬくもりをAは知っている。8年もの間、ずっとずっと探し続けていた。
もう絶対に離したくない。
薄れていく視界の中、その手を必死に握りしめた。
それからAは丸3日眠ったままだった。ぼんやりとした意識の中、ゆっくりと目を覚ました。見慣れない天井とふかふかのベッド。
夢を見ていた気がする。懐かしい、兄のぬくもりに頭を撫でられた夢。
ぼんやりとしていたが、徐々に感覚が戻ってきて全身を激痛に襲われた。顔を歪めるAをひとりの少女が心配そうに声をかけてきた。
「痛みますか?」
見知らぬ少女。歳はAより少し上くらいだろうか。蝶の髪飾りをつけ、蝶の羽のような柄の羽織を着た彼女の口元には笑みが浮かんでいた。
「……ここ、は…」
3日ぶりに出した声は掠れていて、A自身驚いた。
「ここは蝶屋敷です。普段は負傷した鬼殺隊士の治療をしています」
「……きさつ、たいし…?」
「ええ。鬼を滅殺する組織ですよ」
「…鬼。…あの、ひとつお伺いしても?」
「どうぞ」
「私をここまで運んできた方はどなたですか?」
29人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:星ノ宮昴 | 作成日時:2021年6月8日 21時