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鬼殺隊 ページ13

「だが、消えない傷を負わせた。…Aにはもう何も気にせず平穏に過ごしてほしかった」

「…そんなの」

また涙が頬を濡らした。

「無理だよ。お姉ちゃんがあんなことになって、平穏になんて…」

姉が発した最期の声は悲鳴だった。痛みに耐えながら、苦しみながら死んでいった姉をAは一度だって忘れたことはない。

この世界は残酷だ。

血の赤と共に大切なものが失われていった。鬼という存在を知ってしまったら、2度もその恐怖を味わってしまったら、前のように過ごすことなんてできない。

「お兄ちゃん、お願い。約束して。もう私の前からいなくならないで。私を置いてどこにも行かないで」

「ああ」

兄を求めて伸ばした手は優しく握られて、Aははらはらと涙を流した。

「…もう1人にしない」

「本当?」

「ああ。離れて傷つけられるくらいなら、側で護る」

頭を撫でる優しい手が、温もりがAの涙をまた溢れさせた。

「…今度こそ絶対に」

同じ色の双眸にはAへの愛と強い覚悟があった。

「……お兄ちゃん」

Aの右手が義勇の着物を掴む。

「…ありがとう。でも、なんで置いていったの?」

ずっと聞きたかった。あの家に1人置いていかれて、寂しかった。兄まで亡くしてしまったのではないかと怖かった。ずっとずっと会いたかった。

「…俺は、鬼殺隊に所属している」

この屋敷で目を覚ました時、しのぶに聞いた『鬼殺隊士』と言う言葉。おそらくそういうことだろうと思っていた。

「…Aを巻き込むわけにはいかなかった。Aを護る力が欲しかった」

今までも、これからも。義勇は任務よりもAの安全を優先してしまうだろう。たとえ命に代えてでも護り抜く。それが義勇が心に刻んだ誓い。絶対にブレない一本の芯。

「…お兄ちゃん。私は、護ってほしいなんて、思ってないよ。生きていてくれればそれでいいの」

「…ああ」

本当は今すぐにでも危険な仕事は辞めてほしい。だけど、兄妹とはいえAが義勇の人生に口を出すことはできないのだ。鬼と闘う仕事なんて危険すぎるのに、辞める意志はその瞳には宿っていない。

「…お兄ちゃん。毎日会いに来て、元気な顔見せに来て」

そうしないと不安で仕方がないと思うから。

「ああ。約束する」

義勇の優しい温もりに頭を撫でられて、Aは心から安堵した。

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作者名:星ノ宮昴 | 作成日時:2021年6月8日 21時

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