再会 ページ12
いつの間にか眠っていたようで、Aは頭を撫でられた気がして目を覚ました。
「……に……ちゃ……っ‼」
成長しても変わらないその温もり。Aに向けられる優しい瞳。同じ色の双眸と目が合って、Aはその体に抱きついた。痛み止めが効いているからか、痛みはなかった。
「……お兄ちゃん…っ!」
溢れ出した涙は止まることを知らずに溢れ続ける。
「A」
骨格も声もすっかり大人の男になってしまっているけれど、その温もりが兄である証だった。昔から変わらない、優しい温もり。
派手な半々羽織を両手で握って、泣き続けた。
「大丈夫か」
優しく、傷に触れないように抱きしめ返されて、Aは更に泣いた。ずっと探しても見つからなかったのに。
8年という歳月はAを幼子から少女に、義勇を少年から青年に成長させた。
言いたい言葉はたくさんあった。聞きたいこともたくさんあった。だけど、そのどれもが喉の奥で絡まって言葉にならなかった。
「…良かった」
たった一言。だけど、その言葉にたくさんの想いが詰まっていた。
それまでの寂しさや、悲しみ、こうしてまた会えた事への嬉しさや安堵が波となって押し寄せる。
「…すまなかった」
底知れぬ後悔がその声に宿っている気がした。
Aをベッドに横たえて、義勇はその髪を撫でる。右から左に、背を裂かれた傷に沿って切断された髪は満足に移動もできないAには切り揃えることなんてできなくて。不揃いな髪を見るたびに恐怖を思い出す。
頬を濡らす涙を拭って、義勇はぽつりと呟くように言った。
「…Aだけは絶対に護ると誓った」
義勇はまだ幼かったAを置いて、鬼殺の剣士になる為に修行を積んだ。危険な目には遭わず、姉が殺されたあの日のことも忘れて、ただ平穏に幸せに暮らしてほしいと願っていた。その幸せを、義勇は遠くから見守り、護っていられれば良かったのだ。だけど。
「…護れなかった…」
Aよりも口数の少ない義勇。そんな彼が語ったのは、溢れんばかりのAへの愛だった。Aが義勇が生きていたことに安堵したように。彼もまた、Aをずっと想っていた。
結果論としてAは大怪我を負い後遺症が残ってしまうのだとしても、こうして命を救われたことに変わりはない。
「…そんなことない。私はお兄ちゃんに救われたよ。ありがとう」
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作者名:星ノ宮昴 | 作成日時:2021年6月8日 21時