後遺症 ページ11
朦朧とした意識の中、確かに見たあの背中は大好きな兄によく似ていた。幼かった頃、必死に追いかけた背中の面影があった。成長して幾分か大きくなっていたが、Aには分かる。
「冨岡さんですよ」
「…とみ、おか……義勇…?」
「ええ。とても焦っていたので、冨岡さんにとって貴女はよほど大切な人なのでしょうね」
「…そう、ですか…」
涙が溢れそうになって、右手で目元を押さえた。
「すみません、ご迷惑をおかけしていますよね」
「いえ。…大丈夫ですか?」
深呼吸を数回して、呼吸を整える。涙は本人に会うまで取っておく。手を外して、微笑んだ。
「…あ、申し遅れました。私は冨岡Aです」
「ご丁寧にありがとうございます。私は胡蝶しのぶと申します。…冨岡、ということは…」
「…冨岡義勇の妹です。兄がお世話になってます」
「そうでしたか。…Aさん。少し痛み止め打っておきましょう」
そう言ってしのぶはAの腕に注射をした。
「いかがですか?」
「……少し、楽になりました。ありがとうございます」
「少し、お話ししておかなければならないことがあります。貴女の体のことで何点か」
真剣な表情のしのぶにAは頷いた。
「手は尽くしましたが、おそらく今まで通り生活することはできないでしょう。背中の傷と左腕の傷と右ふくらはぎの傷は治っても痕が残ってしまうと思います」
まだ13歳の子ども、しかも女の子のAには酷な内容だった。
「試してみないと分かりませんが、おそらく左腕と右足になんらかの後遺症が残ってしまうと思います」
「…はい」
「とはいえ、その傷ですからしばらくは絶対安静です。痛みが軽減したとはいえ、ご自分で動くのは控えてくださいね」
「…分かりました」
「きっとすぐに冨岡さんいらっしゃいますよ。毎日貴女の顔を見に来ていますから」
「ありがとうございます」
堪えられなくて、涙が一筋流れた。
「…Aさん」
肩を優しく撫でられた。
「酷い兄ですよ。まだ5歳だった私を置いて…勝手にいなくなって…勝手に助けに来て…。また会いに来るなんて」
涙を拭って、Aは笑った。
「お兄ちゃんのこと、ずっと探していたんです。たった1人の家族ですから」
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作者名:星ノ宮昴 | 作成日時:2021年6月8日 21時