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ふいに彼女が口を開いた。
「ワイルドストロベリーのジンクス、知ってる？」
その問いに「いえ、そういうものには疎くて……」と答えると、最初からわかりきっていたように「そうだよねえ」と呟いた。
「実が生ると結婚できるとか、子供ができるとか言われてる。絶対に枯らしちゃダメなんだ。だからずっと気を付けて、愛情込めて育ててきた。でもそっか。割れるって結末もあるよね」
弱弱しく笑って、床に広がっていた土を片手ですくいあげる。手のひらに乗ったそれは彼女の手に留まることなく、指の間を通り抜けてさらさらとこぼれ落ちていく。その仕草がまるで、彼女の髪を愛しんですくい上げる時の僕のようで。やはり、彼女の存在を僕の人生に刻み付けてしまいたくなった。
「明日、婚姻届提出しに行きましょう」
今日の朝ご飯は食パンにしましょう、と言う時と同じトーンで、その背中に向かって言葉を落とした。その瞬間、「えっ！」と大きな声と共にこちらに視線が向けられる。その勢いで、まだ整えられていない黒髪がばさりとひるがえった。
「明日は月曜だよ？ 仕事じゃないの？」
「無理矢理にでも休みを取るので。問題ありません」
「なんでまた急に……」
ごもっともな疑問に「ぐっ……」と言葉が詰まる。
その通りだ。今まで優しい彼女に甘え、仕事が忙しいからと自分の都合ばかり優先して、いつまでも結婚指輪を用意してあげなかった。そんな僕が突然、何の計画性もなく仕事を放りだすようなことを言っているのだから。
「まあ、そもそも僕の我儘で引き延ばしていましたし……」
そう前置きしてバルコニーの柵に体重を預けると、目覚め始めた町を意味もなく見渡した。冷たい秋風が肌の表面をするりと滑っていく。ガタン、ガタンと電車が走り抜けていく音がする。人間が生活する音。
多分、今の僕はどうかしている。昨日の夜、あの夢を見た時から。いや、本当はもっと前。君への感情を自覚した時から。僕はずっとどうかしていた。
「君が死ぬ夢を見ました」
彼女に背中を向けたまま僕は続ける。
「そして気が付いたんです。君と家族になりたい……と、そう言ってしまえば聞こえはいいかもしれませんね。僕は、君との社会的証明が欲しかった」
太陽の光から顔を背けるように、ゆっくりと振り返る。彼女と向かい合うかたちでしゃがみこんで、その透き通った瞳を真っ直ぐに見つめる。お互いの呼吸音が聞こえるほど、膝が触れるほど近い距離。視線が絡む。
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繪棲(プロフ) - す、素敵…！！落ち着いた優しい雰囲気の世界が急にひっくり返って…頭が打たれたような感覚になりました。凄く好きです…！！ (2021年11月24日 0時) (
レス) @page17 id: 222d8aed0b (このIDを非表示/違反報告)
上鳴忠(プロフ) - ループ物語ですか！？うっわ…最高すぎました… (2021年11月20日 11時) (レス) id: b231fac804 (このIDを非表示/違反報告)
上鳴忠(プロフ) - わー！最近イナイレの作品が少なくなってて更に推しのやつも変わってないなーと思ってたら！ (2021年11月20日 7時) (レス) id: b231fac804 (このIDを非表示/違反報告)
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