２ ページ2
彼女はいつもこの婚約指輪を身に着けている。日中の活動時はもちろん、こうやって眠る時にも外すことはない。寝る時くらい外せばいいのにと思わなくもないが、僕としても満更でもないので彼女の好きなようにさせている。
起こしてしまったことを素直に詫びると、
「そのままだと寝にくいでしょ。シャワー浴びておいで」
と子供をなだめるように優しく微笑まれてしまった。
彼女はどうにも、僕のことを小さい子供か、あるいは猫の類か何かだと思っている節がある。二十を過ぎた成人男性に何を求めているんでしょう、と内心呆れつつも、目元に触れているその指が気持ちよくて思わず目を細めてしまう。こういう風に扱われるのは嫌いだったはずなのですが。いえ、だったという過去形は間違いで、今でも彼女以外にされれば腹が立ちますが。なぜかこうも、彼女にだけは心許して、もっと、と無言で強請ってしまう。
僕も大概ですね。そう心の中で自嘲しつつ、素直に「そうします」と頷けば、彼女は満足そうに笑って「よしよし」と頭を撫でた。
適当なバスタオルと替えの服を手に取って、ふらふらと覚束ない足取りで脱衣所に向かう。汗で重くなったパジャマを脱ぎ捨て洗濯カゴに入れる。昨日の洗濯物の上に、六時間ほど前に着たばかりの服が積み重ねられる。
ふと脱衣所の鏡が目に留まった。親譲りの、僕の顔。目の下にくっきりと隈が浮かべて僕を睨んでいる。最近は仕事が忙しかったので、百パーセントそれが原因だろう。おまけに、気分の悪い夢を見たせいかどこか頼りない表情をしており、それが陰鬱さに拍車をかけている。今まで彼女にこんな顔を見せていたのかと思うと気分が落ち込んできたので、すぐに目を逸らして風呂場の扉に手を掛けた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 4人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
繪棲(プロフ) - す、素敵…！！落ち着いた優しい雰囲気の世界が急にひっくり返って…頭が打たれたような感覚になりました。凄く好きです…！！ (2021年11月24日 0時) (
レス) @page17 id: 222d8aed0b (このIDを非表示/違反報告)
上鳴忠(プロフ) - ループ物語ですか！？うっわ…最高すぎました… (2021年11月20日 11時) (レス) id: b231fac804 (このIDを非表示/違反報告)
上鳴忠(プロフ) - わー！最近イナイレの作品が少なくなってて更に推しのやつも変わってないなーと思ってたら！ (2021年11月20日 7時) (レス) id: b231fac804 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
