【em】あなたは魅力的__no ページ28
バーという店は、私にとって見れば背伸びをしたくなる時に行く、まさにピンヒールを履く行為と等しいものである。もちろんバーなんて行く日は決まってヤケ酒をしにいくような日ばかりだし、ピンヒールを履いたら翌朝は決まって足首とかもろもろが悲鳴を上げる。それらの代償を支払うたび、私は己の幼さを痛感するのであった。
そんなある日、私はある人の待つ場所へと向かっていた。年季の入った扉を開ける前に、今一度手鏡を取り出して自分の顔を確認した。疲労の色をレッドリップで隠して、先ほどまで対応に追われていたアクシデントのことなど忘れ、あの人との逢瀬に浸ってしまおうと心に決めてから扉を開けた。
ヴィンテージという名前が相応しい店内に入ると、初老の男性が「いらっしゃいませ」と恭しく出迎えてくれる。そこから少し遅れて、あの人、つまりエーミールさんが「お疲れ様」と手で招いてくる。
「...疲れたやろ、仕事立て込んでたん？」
「あー...大丈夫です、なんとか終わりましたから」
「ならよかった。じゃあ、一杯目何か頼みます？ 俺も新しく何か頼もうと思ってたところやから」
ジャズミュージックのレコードがくるくると調子よく回って、彼の落ち着いたトーンと共に心地よく音が耳に入ってくる。
ある時、元彼にも振られ雨にも降られ、それらの影響が仕事にも及びそうになったことがあった。その時、お互い見知らぬ人同士だったにも関わらず、彼は今と同じように優しい声で私の話を聞いてくれたのだ。背も私と比べ高く、雰囲気も大人っぽいこの人に出会ったのは、奇しくもピンヒールなんて履かず、バーで後先考えずに飲みまくっていた時だったのだ。
あれから一年と何ヶ月かが経った。不思議なことに今私は彼の横に座れているわけだが、何か変わったことはあっただろうか。彼は、ピンヒールを履いて靴擦れをしたのなら「ば、絆創膏！あと何か手伝うこととか...」とあたふたしつつ手当てしてくれるだろうし、バーで酒を一緒に飲んだら「お酒、美味しいけど、たまにはチェイサーも必要だから」と言ってお冷を渡してくれるような優しい人だ。まだまだ子供っぽい私を包んでくれる彼に甘えているのは事実であった。
彼の方はというと、付き合い始めた最初こそ女性慣れしていないのだろうか、少しあたふたしていたが、今ではこちらがリードされることも多くなっていた。
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夢喰病 - 一話一話本当に素敵です…！私もこんな文才が欲しかった…(小声) 最後まで楽しく読ませて戴きました！最高の短編集をありがとうございましたm(_ _)m (2020年3月23日 10時) (
レス) id: 582bb38728 (このIDを非表示/違反報告)
みみ - ショッピくんの「寝たい」の続編まってます！ (2019年10月13日 6時) (レス) id: e38fcc759c (このIDを非表示/違反報告)
蝋 - ん”ん”ん”好きです。(唐突) 表現が素晴らしいです…! 更新待ってます！ (2019年9月12日 1時) (レス) id: a160d0e24d (このIDを非表示/違反報告)
栄養失調 - 割と本気で語彙を下さい……えぇ……素晴らしい作品を見つけてしまった……更新頑張ってください！！めっっっちゃ応援してます！！！ (2019年9月3日 21時) (レス) id: 3967b4b60c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ギスギスしない夢女達 x他4人 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/tantanmen1/
作成日時：2019年8月31日 16時
