【gr】夏が終わっていく(un) ページ13
『八月が終わるのは雪が溶けるより感覚的なのに、夏が終わるのが儚いのはどうして。』
八月三十一日。学生時代は夏休み最終日と終わらない課題に明け暮れていたが、この歳になれば其れもいい思い出だ。
懐かしい閉塞感から抜け出して足元を掬われる漣を見下ろしていると、遠くからさくさくと砂を踏んで近づいてくる足音が、ひとつ。
｢準備出来たぞ｣
心地良い低音に頷けば白い浜で蝋燭が揺れていた。
宵闇を薄暗く照らす隣の色鮮やかなプラスチックのパッケージを開けて、中から蜜柑色の手持ち花火をひとつ取り出す。
彼は私の様子を見ながら一気に三本も取って火をつけた。｢沢山あった方が楽しいだろう？｣なんて言うから子供っぽいねと笑う。
｢こういう時くらい、子供にもなればいいじゃないか。｣
言い得て妙である。星を映した瞳が紅炎で染まっていて、私も火先に筒を近づけた。
緑色から青色に。青色から黄色に。
めまぐるしい日常を置いていくような幻想が周囲を支配する。
ススキ花火を、変色花火を、ネズミ花火を使い切る彼を眺めながら碧水に足を浸け、処暑の蒸し暑さを緩和していれば、そろそろ泡沫もはじける頃。
｢最後は線香花火だろう。｣
余った残り偶数本を半分こする姿は子供のようであり、そうでもなかった。
一本、二本。ぱちぱちと星屑を散らしながら落ちていく。
三本、向かい合う彼はじっと、其れを見つめる。
最後の一本に火を点け、落ちないようにと慎重になる私に、
先に火花を落としたグルッペンが妨害するようにキスをした。
｢…………｣
｢終わったか？なら帰ろう｣
不完全燃焼である。
浜辺に小さく燃える炎はすぐに消えた。
一度超えてしまえば気にならない癖に、八月の終わりは焦燥を生む。
葉月の結、夏らしい思い出は作れただろうか。
｢なに、他にやりたいことがあったなら来年消化すればいいさ。何年後でもいい。まだまだ夏は何度も訪れるのだから。｣
そう言って、彼は笑った。
【ci】君と仲良くなりたい！ *ﾏﾝﾎｰﾙ→←【gr】不可能な事があるなんて─kec
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夢喰病 - 一話一話本当に素敵です…！私もこんな文才が欲しかった…(小声) 最後まで楽しく読ませて戴きました！最高の短編集をありがとうございましたm(_ _)m (2020年3月23日 10時) (
レス) id: 582bb38728 (このIDを非表示/違反報告)
みみ - ショッピくんの「寝たい」の続編まってます！ (2019年10月13日 6時) (レス) id: e38fcc759c (このIDを非表示/違反報告)
蝋 - ん”ん”ん”好きです。(唐突) 表現が素晴らしいです…! 更新待ってます！ (2019年9月12日 1時) (レス) id: a160d0e24d (このIDを非表示/違反報告)
栄養失調 - 割と本気で語彙を下さい……えぇ……素晴らしい作品を見つけてしまった……更新頑張ってください！！めっっっちゃ応援してます！！！ (2019年9月3日 21時) (レス) id: 3967b4b60c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ギスギスしない夢女達 x他4人 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/tantanmen1/
作成日時：2019年8月31日 16時
