Mr.Princess #3 (ページ9)

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BHside

寒さが和らぐ季節でもマフラーを手放すにはちょっと肌寂しくて、首回りにぐるぐると安物のそれを巻き付けて寒空の下を歩く

すれ違う人々はどこか色めき立ち、これから起こる何かに期待を寄せて

女の子たちはやたら荷物が多く、濃い隈が浮かぶ顔に昨夜の努力が伺える

どうせならその顔もどうにかして万全の状態でスタンバるのが本当の女の子ってもんでしょうが！

と、普段は眠っているベク子ちゃんが荒ぶった

なんてったって今日はバレンタイン、女の子にとって一世一代の恋のイベント

そして

俺にとって一年で最も憂鬱な日だ

校門をくぐるや否や、待ってましたと言わんばかりに女の子に囲まれる

そうして次の瞬間、それは始まった

「好きです！」

「これ受け取って」

「丹誠込めて作ったから」

デパートのセールで女(狩人)たちが奪い合う服のごとく俺の腕があらゆる方面から引っ張られる

そしてもはや誰からか分からぬ恋心を打ち明けられてはその腕に紙袋のひもが通された

待って、俺の腕もげちゃうから！あんなにしっとりツルツルに手入れしてるのに痕ついたらどうしてくれんだよ！

表情は驚いたり笑ってたり、口の中では考え得る限りの罵詈雑言をわめき散らして時が経つのを待つ

今のこの国では海を挟んだ隣国、日本式のバレンタインが流行っていた

バレンタインて本来男から女へ花とかをあげて告白する日だろ？やっかいなことを考えてくれたもんだよ
しかもチョコレートそんなに好きじゃないんだけど

断れたら楽だけど、自分が可愛くなるために化粧に必死なのと同じように彼女たちもまた想いが届くように必死に作ったものだとしたら無理だった

ようやく去った台風１号も教室に行けばすぐに２号がやってくる

それを思うと荷物だけじゃなく気も重くなるばかり

本当に好きな人から貰えたら嬉しいのかなぁ

と思い浮かんだその人が想像の中で作るバレンタインスイーツはどこか不出来で、無意識に頬がゆるむ

ま、悲しいことに俺宛てのモノじゃないんだけど

確かついこの間ミンソギヒョンにご飯に連れて行ってもらったとき
バレンタインデートをするとか何とか言っていた

お酒が入って気分が良いのか、軽口になってご丁寧に事細かく教えてくれたもんだから忘れるはずがない

ベタですねなんて返したぐらいには定番のデートスポット