Mr.Princess #3 (ページ7)

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BHside

「暇だ…」

3学期と言えば卒業式みたいな大イベントがあるようだけど、実際それ以外には何もない退屈な毎日だ

それは大人の世界も同じで、バイト先の店はお祝い事に沸く社会人や家族連れで溢れた年末年始など知らぬ存ぜぬを貫き通して今日も閑古鳥が鳴く

まあ、何もしなくてもお金が入るに越したことはないけどやるからには張り合いが欲しいなって思ったり

「ベクヒョンは真面目だよなぁ」

手持ち無沙汰に食器磨きをする俺の後ろで店長はタバコをふかす

監視カメラの死角でサボる姿は情けない大人だなぁと思う反面、そういう上手い生き方が羨ましくなる

「じゃあボーナスとかくださいよ」

「ん～？聞こえなーい」

ゲラゲラ笑って口から吐き出した煙が天井の換気扇に吸い込まれていく

大人はずるい

タバコの煙に紛れて何でも誤魔化せるから

「……店長、タバコって美味いんすか？」

「なに？吸いたいの？」

「いや、別にただ…」

「“ただ”？」

何の気なしに繋げた言葉の先が自分でも分からなくて答えずにいると、こっち
を向けと言われた

言われてフォークと布巾を持ったまま振り返ると口にタバコが押しつけられる

「そんな気になるなら一本どうぞ？」

恐る恐る口を開いて咥える

「これで大事になって、未成年なのに店長に強要されて…(涙)とか言わないよね？」

「そんなことしませんよ(笑)」

「言ったからなー」

店長は慣れた手つきで先端に火をつける

ちょっと吸い込んだつもりだった

…ひゅっ
「ゴホッゴホッ！！」

思ってたよりも煙が入ってきて盛大に咽せる

目の端に涙を滲ませる俺を店長はまたゲラゲラ笑って背中をさする

「どうだ？美味かったか？」

「不味くはなかったけどｹﾎｯ…また吸いたいとは思わないです」

「そうか。ま、そう思える内はまだまだ素直ってことよ」

「え？」

「嘘吐くのになれちゃいかんぞ」

店長は俺の肩を叩いてからキッチンに入った

気を遣われたなと思った

普段は言わないようなことを言えばそりゃ何か察するか…

どんなに煙に巻かれようが何か隠せるわけもなく、逆に焦って背伸びをしたことで本物の大人に気づかれる

それなら吐きたくなかった嘘はどう取り戻せばいいんだよ

初めて吸ったタバコは胸が詰まるように苦しくて、ただそれだけだった