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…いや、待って
ベクはわざと私に話しかけてきたんじゃないか？
だって私、ベクと話している間はチャニョルのこと思い出さないんだ
首のコレだって男にやられたって分かってるはずなのに、聞いてこないし
あの女装だって、たぶん男を感じさせないため
なんだよ…ベクのくせに
ベク子のときは毒しか吐かないじゃん
でも今日はその毒の裏に優しさを込めるなんて
そんな暖かいのはずるいにも程がある
シャワーの音に隠れてひっそりと涙を流す
悲しみでじゃない、ベクの優しさが呼んだ、暖かな涙だった
お風呂から出ると洗濯機の上にパジャマらしき物が二つ置いてあった
一つはフリルとボンボンが付いた可愛いので、もう一つはグレーのスウェット
迷わずスウェットを選ぶとぴったり
そうか身長にそんな差がないからな…
女と身長変わらないってちょっとかわいそうだなと思ったけど、笑ってしまった
「出たよ」
「…なんだ。やっぱりそっちか」
「こんなの着れるかよ」
着なかった方をベクに渡す
「だって女子会みたいなことしたいなって思ったから」
頬を膨らますベクは、茶髪のウィッグを付けて化粧も完璧で、完全に女の子になっていた
わざわざ着替えたのか、ネグリジェを着ていて
その似合うことと言ったら言葉にできないくらい
「おいで。髪の毛乾かしてあげる」
ブォーーー
ベクはものすごく丁寧に乾かしてくれた
くるくるブラシで根元から毛先にかけてすーって空気を含むようにとかしながら乾かすんだ
人にやってもらうのって気持ちいいんだな
それに眠たくなるし
「A、眠いの？」
頭をコクコクさせていると、ドライヤーを止めたベクが囁くように言った
「んー」
「それじゃ寝ちゃいな」
うつろな意識の中、ふわっと体が宙に浮く
ゆらゆら揺られて、そうして今度はふかふかのベッドの上に降ろされた
「ベクはどこで寝るの？」
「アタシはこたつで布団にくるまって寝るから」
「そんなの風邪引くよ」
「じゃあそっちに入っていいって言うの？」
「……女友だちなら特別に許す」
「じゃあ後で入らせてもらうわ(笑)」
掛け布団を被せられたら、感じていた温もりは消えようとしたからキュッと掴む
行かないで
「どこにも行かないよ。ただ顔を洗いに行くだけ」
そう言って洗面所に行き、バチャバチャ音がしてしばらく、電気を消してちゃんと戻ってきてくれた
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作者名：ウサン | 作成日時：2016年8月8日 8時
