Mr.Princess #2 (ページ1)

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涙はしばらくしたら止まった

十五分くらい経ってから、
向こうからベクが人目も構わず猛ダッシュで駆け抜けてくるのが見えた

「A！」

私の前で止まると、両膝に手を突いて肩で大きく息を吸う

「ﾊｧ…ﾊｧ……何があった？」

息が整ってきたところで顔を上げて、私に手を伸ばそうとしたけど

「やっ、」

反射的にその手を払いのけた

驚いたような、傷ついたような、そんな目で私を見るベク

私も自分のしたことが信じられなくて呆然とする

私、今何を…？

「……ごめん」

「いや、こっちこそ。いきなりはびっくりだよな…」

気まずい沈黙が流れる

それを破ったのはベクだった

「首のソレ…」

指摘されてさっと手で隠す

あぁどうしてベクなんかに電話しちゃったんだろう

どうして涙我慢しなかったんだろう

そんなことしたらベクが絶対来るって分かってるのに

それでこんなの見たら絶対心配するのに

「あはは、ダニに刺されたっぽくてさあ、痒くて引っ掻いちゃったんだよね～」

咄嗟に吐いた嘘は、嘘だってバレバレ

でもお願い

どうか騙されて

それで“ああそうか”って言ってそのまま帰って

私の大切なキミに迷惑はかけたくないんだ

けれども私の願いは届かず、キミは見事に言い当てた

「A……それ、本気で言ってる？
泣いてたのってソレが理由なんじゃないの？」

「…っ」

言い返せないでいると
ベクは分厚いコートを脱いで私にふわっと被せた

「とりあえず、風邪引くからこれ着とけ」

「いいよ。だってベク寒いでしょ？」

「俺は走ってきて暑いからいらないの」

うそつき

さっきから真っ青の唇震わせてんのは誰だよ

でも今は……

その優しさに甘えても良いのだろうか

「分かった。Aが言いたくないんだったら聞かない」

「うん」

「けどもうこんな時間だし家に帰った方が
「帰りたくない」

「は？」

「帰りたくない。…ううん。帰れない」

「どっか泊まる宛あんのか？」

「ないけど…」

どうしても嫌なのだ。チャニョルがいるあそこは

されたことを思い出すと体の震えが止まらない

“じゃあ”と躊躇いがちにベクが口を開いた

「俺の家、来る？」