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そんな私を哀れに思った男が一人がいた。
もちろんその男もこんな腐った研究を続ける一人だった。
「……自由に生きたいとは、思わない?」
ある晩、私の元に来た彼は、そんな言葉を言ってのけた。
この世に生を受けてからというもの、自由を奪ったのはこいつらで、私に死を望むような生活をさせているのもまた。
「……よくもまぁ、そんな事が言えますね」
可笑しくて、仕方なかった。
思わず、笑ってしまうほど。
同時に感じる激しい憎悪。
まだ私にもこんなに強い感情があったのかと、自分でも驚いたことを覚えている。
「…行こう、」
「……行くって、何処へ?」
「外だよ。……もっと自由な、外の世界へ」
突拍子もない言葉だった。
しかしその言葉に憎しみを覚えなかったのは、その男があまりにも苦しそうに、顔を歪めていたからだ。
「僕は君に、自由に生きていてほしい」
どうして、と言いかけた。
どうして私より、ずっと苦しみの中にいるような、そんな顔をするの。
「…僕が真選組にタレコミを入れたんだ。…対応に追われて監視も手薄になってるはず。今なら、きっと」
「……でも、」
「…Aさん。僕はクソみたいな人間だ。君にしてきた事も、許されるなんて、許してほしいなんて、思っちゃいない」
それでも僕は、君にいつか、笑ってほしい。
___生きていて、良かったと。
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震える手で、差し伸べられた手を取った。
それはもう、私の意思ではなかった。
ほとんど無意識に、自由に手を伸ばしていた。
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ただ、それだけだった。
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作者名:日向 | 作成日時:2020年10月10日 23時