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好きになるのは女の子ばかりだった。
そんな中、たった一人
宜野座さんだけは違った。
背も高くて、筋肉質で、顔こそ女性のように綺麗だが誰が見ても男性だと思うだろう。
私は宜野座さんに女の子特有の柔らかさや、高く可憐な声を求めている訳ではないはずだ。
現に今、あの逞しい腕に一度でいいから抱かれたかった、あの低くて落ち着いた声でAと呼んで欲しかった、なんてやましい欲を抱えている。
シビュラを疑うことは許されない。
だけど、もしシビュラがなければ、もっと別の人生があったんじゃないかと考えてしまう。
宜野座さんの恋人になれなくても、そばにいることなら許されたかもしれない。
家がおかしくなることもなかったかもしれない。
いまさら考えても仕方ないことばかり脳に浮かび上がってくる。
『今のうちに泣いておきなさい。じゃないと、色相が濁っちゃうわよ。』
昔美佳ちゃんに言われたことをふいに思い出した。
あのときの美佳ちゃんの目はまるで失恋した後のようだった。
粒が頬を伝う。止まらない。
子供のようにしゃくりあげながら泣く。喉が苦しい。
泣いても何も解決しないのに涙腺が言うことを聞かない。
気の済むまで泣けば少しは楽になるだろうか。
そうであってくれないと困る。
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作者名:細々夜 | 作成日時:2021年11月30日 18時