翠玉を覗く【宜野座伸元夢】 (ページ30)

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力が抜けてへなへなとその場にへたり込む。

端末が床に落ちて鈍い音を部屋に響かせた。

読めば読むほど文字が一つ一つ独立しているように見えて文章として認識できない。

私は何を期待していたんだろう。

視界がだんだんぼやけてくる。

涙が頬を伝ってくすぐったい。

涙を流して泣くのなんていつぶりだろう。

母さんの葬式以来かもしれない。

分かっている。

宜野座さんの判断は極めて当たり前のことで、そもそもプライベートで会おうなんて考えがおかしかった。

それでも涙が止まらない。

綺麗で、かっこよくて、別世界の人みたいな宜野座さんを独り占めしているような気分だった。

宜野座さんがよく言う『あの人』から彼を奪えたような気がしていた。

最低だ。こんなことを考えるなんて。

自分の色相を確認してみる。

パウダーグリーン

健全な色相。

こんなに落ち込んでるつもりなのに、ほんのわずかしか濁りを見せない色相に苛立つ。

この社会において贅沢な悩みだとは自覚している。

だけど実際、この色相のことで嫌な思いをしたことは何度もある。

友人に羨ましがられるだけならまだいい。

学生時代は名前も知らないような子たちから陰口を言われもした。

『可愛くないくせに、色相だけは美人なのね。』

いつだったか、そんなことを言われたのを思い出した。

気持ちが沈むと嫌な思い出ばかりが蘇ってくるのはなぜだろう。

父親にも色相について罵られたことがある。

大きな怒鳴り声と物音。今でもトラウマだ。

思い返せばそれがトラウマで男の人を恋愛対象として見れなかったのかもしれない。