さんじゅうさん。 ページ34
◇
「最近暑くなってきたから水羊羹を作ってみたの。良かったら召し上がって」
『みず……よう、かん…………』
どうやらこの目の前にある真っ黒な物体の正体は水羊羹らしい。
水羊羹の要素を一切感じられないが、お妙が言うのだからそうなのだろう。
Aはこのダークマターにどこか既視感を感じていた。
そう、あれはAが大食堂で夕飯を食べていた時だ。
「今日は何にしよっかな〜」
「僕は卵料理にする。オムライスがあるといいんだが」
「オレ様は肉にするんだゾ〜」
『はいはい、グリム走らない』
ナイトレイブンカレッジの大食堂はバイキング形式。
各自好きな物を選べるところはとても魅力的だとAは思っていた。
Aがトレーを持とうと手を伸ばすと
「おーい、A！ こっちじゃ、こっち！」
リリアがAを呼んだ。
その横にはセベクの姿もある。
名前を呼ばれたからにはいかないと失礼だろうと、Aはトレーに伸ばしていた手を引っ込めてリリアの方に向かう。
『リリア先輩こんにちは』
「うむ。呼び止めてすまんかったな。A、お主の為に料理を作ったんじゃ」
これじゃ！ とリリアが笑顔で差し出した真っ白なお皿の上には、お皿とは対極の真っ黒な謎の物体があった。
じゅわじゅわと音が出ていることから焼きたてなのだろう。
Aの額と背中に冷や汗が伝う。
これは、食べたら逝くやつだ。
『あー、私食べたい料理があって、それは人気だから今すぐ行かないとー』
「くふふ、嘘なのが丸分かりなほどの棒読みじゃな」
「ニンゲン！ リリア様がお前の為に作ってくださったのだぞ！ さっさと食べないか！」
『嫌だよ、そんなダークマターを食べてまだ死にたくないよ。そんなに言うならセベク味見して』
「なっ……！！」
まさか味見係が自分に回ってくると思っていなかったセベクは、身を仰け反って驚いた。
「そうかそうか。セベクも食べたかったのか。遠慮することはない、一気に食べるといい」
「ぐっ……！ い、いただきます」
後に引くに引けないセベクは「こうなったのはお前の責任だぞ、ニンゲン！」と言わんばかりにAを強い眼力で睨みつけるが、Aは
『ほら、セベクの尊敬するリリア先輩が食べていいって言ってるんだから遠慮せずに食べなよ』
とニヤニヤと笑っていた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 310人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ここ(プロフ) - れいなそんさん» れいなそんさん、コメントありがとうございます^ ^更新が不定期で申し訳ありません…！本日更新いたしましたので楽しんでいただけると嬉しいです。 (2021年6月20日 9時) (
レス) id: e9ce79e520 (このIDを非表示/違反報告)
れいなそん - ｱｯ神作やぁ…一体誰が呼んだんだろ…続きが気になるんじゃ (2021年6月20日 8時) (レス) id: 509e7f7d74 (このIDを非表示/違反報告)
ここ(プロフ) - RENKAさん» RENKAさん、面白いと言ってくださりありがとうございます。一体誰が呼んだんでしょうか…？次の更新をお楽しみにです^ ^ (2021年5月7日 7時) (レス) id: e9ce79e520 (このIDを非表示/違反報告)
RENKA - めっちゃ面白いです！一体誰が呼んだんだ？？気になる…！！ (2021年5月6日 23時) (レス) id: b5b9f86a00 (このIDを非表示/違反報告)
ここ(プロフ) - 雪見大福さん» 雪見大福さんコメントありがとうございます！さてさて、一体誰でしょうね？？^ ^ (2021年5月4日 8時) (レス) id: e9ce79e520 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ここ
| 作成日時：2020年12月17日 13時
