【断章のグリム】死神の使い

灰かぶり 12 ページ14

昨日、蒼衣が連れていかれた病院。

私もそれについていった。

貴女「はじめまして。私は〈騎士団〉のメンバーの阿修羅Aです♪」

蒼衣「あ...はじめまして。白野蒼衣...です。」

神狩屋「僕は鹿狩雅孝。神狩屋とみんな呼んでいるから、そう呼んでくれてもいい。〈騎士団〉の世話役だよ」

蒼衣「はあ...」

神狩屋「ではまず、説明するにあたってこの詩を見てほしい」

╋
私たちの心の、深く深く、とても深く。
もう『私』というモノすらわからなくなるほどの遥か深くに、神様がいます。
神様は深みの寝所で、ずっと眠り続けています。
神様はずっと、夢を見続けています。
神様はあるとき、悪い夢を見ました。
神様は全知なので、この世にある全ての恐怖をいちどに夢に見てしまいました。
神様は全能なので、自分の見た悪夢を切り取って、寝所の外に捨ててしまいました。
切り取られた悪夢は大きな泡となって、深みの寝所からゆっくりと上がっていきました。
大きな泡はいくつにも分かれ、やがて数え切れないほどの小さな泡となりました。
そしてたくさんの泡は、遥かな深みから次々と浮かび上がってきます。
私たちの、心へと向けて。
神の見た、悪夢の泡が。
╋

神狩屋「......いいかい？これは君が見たモノを説明するに当たっての、一つの解釈と考えてもらっていい」

貴女「この『詩』はね、通称『マリシャス・テイル』。日本語にすると『悪意ある物語』と呼ばれている本の冒頭文だよ♪」

神狩屋「これはイギリスの童話作家が書いたいわゆる"奇書"の類いだ。別にこの内容を君が信じる必要はないよ。現に僕も、この本に対していくつかの点で異論を持っているくらいだからね」

貴女「まぁ、信じる信じないは置いといて、この世界に存在する怪現象の正体について一つの重要な答えが書いてあるの」

神狩屋「曰く、『この世界に存在する怪現象は、全て〈神の悪夢〉の欠片である』。
この真偽はともかくとして、君が今日見たような怪現象の類いを、僕らはこの神の悪夢の泡の物語になぞらえて〈泡禍〉と呼んでいる。」

貴女「この神の悪夢の泡は人間の意識に浮かび上がると急速にその人の持っている恐怖や悪夢や狂気と混ざり合って、すぐに人間の小さな意識の器では収めきれなくなって現実に溢れ出すと言われているんだ♪そして溢れ出した悪夢は現実を変質させ、悪夢を現実のものとして〈顕現〉されてしまうの♪」

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